「さみしいでしょう」

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「さみしいでしょう」

と聞かれることが多くある。お嬢が家を出て、大学の寮に入っているからだ。

お嬢が出発するまで、「麦の歌」を聞いては毎日のように涙ぐんでいて、もうどうかしちゃうんじゃないかと思うほど寂しかったのだが、その予行練習が功を奏したのか、卒業式に中座して成田まで、合格を勝ち取った研修留学に送り出すところから大学生活がスタートしたせいもあるのか、

さみしくない。

彼女がいるときには、小僧をたたき起こして、ご飯を食べさせ、「いってらっしゃーい頑張って」と見送り、そのあと起きないお嬢をたたき起こして、ご飯を食べさせ、「はばないすでー」と見送るまで、およそ三時間が必要だったのだが、お嬢なきあと、小僧を見送れば、あとは自由な時間。

そして、小僧の帰宅は基本22時半。週に二回ほど帰宅する時間が19時半だったり、週末は不規則なんだが、彼はあんまりにもお腹が空いた日は、自主練後、定食屋に駆け込んだり、コンビニで補食を買い食いしたりするので、ご飯を作る方としてはかなりいい加減ですんでしまう。成長期のアスリートをマネージメントする立場からは忸怩たるものもあるが、12時間以上常温で放置する弁当で一度大変な目にあって以来、小僧は弁当が嫌いである。だから、練習のある日はとりあえずどんぶり飯だけはたっぷり用意して、今日は夜中に肉を焼くの、いらないの? みたいなラフさになってもう三年目。

これに比べ、近所の学校の規則正しい部活女子だったお嬢は帰宅が早かった。夕食も早かった。アスリートなので、夕食もしっかり食べ、お風呂に入った後、毎日自宅学習時間があって、きちんと就寝した。それは本当に望ましい成長期の過ごし方ではあったと思うし、心身ともに健やかで大変に結構なのだが、伴走する方は七時前には食事が整っていなければいけないわけで、逆算してお買い物に行き、割と大変でもあった。もちろんお嬢は自分でご飯も作れるように仕上がっていたので、結構なんとでもなったのだけれど。

というわけで、かなりいい加減な飯作りなう。

これが、非常に楽なのね。そしてその楽チンぶりが、案外さみしくないじゃん・・・という感情につながっている気がする。なんといういい加減な母親だ、とちょっと反省するけれども、そんなもんだよ。

あとは、ラインという文明の利器があって、そこで今どうしただのこうしただの、毎日とてつもなく刺激的な出来事がおこる彼女の生活を垣間見ていると、あんまり心配することもなく。

国内でも実験的な要素がたくさん揃っている、入りやすく出にくいお嬢の大学は、頑張っている人にはたっぷりご褒美がつくシステムなのがよい。大学合格とともにスタートダッシュが始まったお嬢は、多分自分史上最高に、毎日勉強に時間を費やしているが、それが実に楽しそうだ。そしてその頑張りをちゃんと評価していただけて、今回大学スタッフの一人として東京に「出張」があった。一泊だけの帰省だったが、大学主催の保護者懇親会東京版で、一回生の生活を一回生の代表として活き活きと語るお嬢。

頑張ってる。

おう、なんだか負けてはいられないわ。と、腹の底から元気が湧いてくる。

わずか十年の新設大学なのに図抜けて高い人気就職先への就職率にはきっと何かあるんだろうと思っていたが、懇親会で学長や副学長のお話を直接伺って、なるほどなあと思う点が多々あった。

今まで国内学生の中では完全にマイノリティーだった関東圏出身者が今年10%未満から20数%に倍増、国からスーパーグローバル指定も受けて今後の計画も実にユニークだ。景気良く右上がりな大学には、よりよい人材が集まってくるもので、お嬢から聞く仲良しさんのスーパー大学生ぶりは刺激的で、本当に驚くことばかりだ。学友にも恵まれている。環境は言うことなし。そしてわずか三ヶ月の大学生活ながら、彼女の成長は著しい。

さみしがっている場合じゃない、手元においておくよりずっといい。さみしがってる暇があったら、私も頑張らなくちゃ。彼女の今夏の留学先は、バンコク。顔を見に行くために働いて旅費をため、錆びついたタイ語を磨こう。

子どもが大きくなると、自分のためだけに使える時間が増えていく。実際、こんなに自由な時間ができるなんて、子育て真っ盛りの頃には微塵も考えなかった贅沢。前向きに、いやこの際、ぐっと前のめりに、さあ頑張ろう。