いるもの、いらないもの。

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なんでもない平地で転んじゃって手首を捻挫したり、階段の一番上から滑り落ちてきたスーツケースに背後から足を取られて階段落ちして歩行困難で入院したり、それでも骨折しない自分の頑丈さを愛でつつ、師走。

今は、姑が白内障の手術で滞在中だ。
術後なのでおとなしく寝かしておくべきところ、働き者の彼女がじっといているはずもなく、おかげで家中がピカピカになりつつある。
本来、主婦たるもの、こうでなきゃいけないんだろうなあと思う。
見習いたいが、主婦のほか、農業、地域のいろいろ、かつては介護に子育てもこなしていた万能小型姑のキャリアとスペックを考えると、あまりにも至らなすぎて、ただひたすらすごいなあと敬意を払うばかり。
いわゆる嫁姑の問題が出てくるのって、できるもの同士の頂上対決になるからで、私のように最初から全面降伏だと、一緒にいても楽しいばっかり、助かるわあというのが先に立つので、ストレスがない。
ええーっと、もちろん相手のストレスは測れないが、少なくともこっちにストレスがないので、晩酌が楽しみだったりする。肴を作るのだけは苦にならないのね、私。術後の患者に飲ませてはいけない気もするのだが、そこは姑、大人の判断でな。

姑が家事を担当してくれるので、家内事務処理を進められる。

まず懸案だった、長年愛用してきたシティカードの解約を、今、執り行った。
89年から働く女の右腕として長い間、買い物のお供になってくれていて、付帯する旅行保険の使い勝手も良かったことから、ゴールドカードになった時にはものすごくうれしかったのを覚えている。
いつかプラチナカードを目指すんだと二十代は野心に燃えてもいた。
が、結婚して以来20年、さほど活用することになくなっていたのに、先日プラチナカードの入会お知らせが届いて、金色のカードを誇らしく使っていた無邪気な自分を少し嗤っちゃったのだった。
自分では今、ランチ代程度の稼ぎしかないのに、プラチナカード年会費三万五千円をお持ちになりませんか、は、ないわ。
私のメインバンクのキャッシュカードに、クレジットカードの機能が搭載されたのでシティカードが不要になっている。ただ、思い出深い、金色。というだけで一万二千円の年会費は主婦には高すぎると、思い切って電話をかけた。
しかもこの主婦は、主婦としてはかなり落第点なのだと思うと、なんの迷いもなく電話ができたわ。

或る日突然の事故で入院すると、最初の三日間ぐらいは痛すぎてアレなんだけど、無事が担保されたらあとは痛みが薄れるのを待つばかりなのでいろいろなことを考える余裕ができる。
幸運にも頭を打ったりはしなかったので大丈夫だったけど、打ち所が悪ければそういう可能性だってあったかもしれない。平地でも転ぶ反射神経と筋力低下を侮ってはいけない、加齢は天国が近くなることである事実に間違いはない。最期の旅立ちはゆっくり準備期間があると限ったわけではなく、明日突然姿を消してしまうことだってあるかもしれないのだ。
と思うと、何も持っていけない、何の準備もできない、最期の旅立ちをリアルに感じてしまった。
それで、退院してからバリバリ断捨離を始めた。

18歳の時大学の寮に入るとき、全部捨てて、スーツケース一個で家を出た。
以来相方と結婚するまでの12年間、私は本棚と洋服ダンス以外、いつでもスーツケース二つで引越しができた。なくして惜しいのは本だけで、家具も食器も服も、ひょっとしたら彼氏ですら使い捨ての感覚だったと思う。
常に今日より明日が楽しみだったからだ。
結婚して20年間、思い出を慈しめば慈しむほど、物が増えていった。生活するのが自分のお金じゃなくて、また働いて買えばいいやと思えなくなってから、むやみに物が捨てられなくなった。
それはそれで悪いことじゃない。
でも、いいことでもない。
50歳、娘を大学の寮に見送る立場になった。
相変わらず毎日明日は楽しみだけれど、ここ半年で事故だの怪我だのを頻発させている大人というよりは老化し始めている今日の現実についても、考えなければならない。たくさんの積み重ねた昨日の記憶は大事な宝物だけれど、それは「もの」に宿っているわけじゃないしね。

今、身の丈にあった本当に必要なもの。

まだ下半身が怪しく怪我の痛みで仕事ができない今月、姑も家事を助けてくれるし、神様からもらった休暇をしっかり活用しようと思っている。