日々コレ旅日和〜東京篇1

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「義母の病院におつきあい」というのは、忙しい私にとってゆったり息抜きができる素敵な親孝行種目だ。
義母といっても複雑なご家庭だった訳ではなく、姑と書くとイメージがアレなんであえて義母と書いているだけのことで、相方の母親である。
病院は焦ったところでどうしようもないとわかっているので、時間貧乏性には有り難い。
ああこんな時間かあればあれができる、これもできると考えが津波のように襲ってくるのが時間貧乏性なのだが、護岸されているかのようにそこは平和だ。
携帯電話のご使用は控えなくちゃんならず、音の鳴らないテレビや季節外れの雑誌のほかに娯楽もないので、ひたすらおしゃべりに興じることができる。
たいていはお昼過ぎにおわって、会計が終わるととてもおなかがすいた状態で、おいしくご飯が食べられる。
それから、義母とは東京の気になる都市を散策をするのが定例だ。
散策には都バス・都電・都営地下鉄・日暮里舎人ライナーに乗り放題というチケットを購入する。都内はたいてい縦横無尽に都バスが走っていて、縦にきゅっと都営地下鉄南北線&三田線とモノレールの日暮里舎人ライナー、横にはじりじりと都内最後のチンチン路面電車の都電が走っていて、タクシーを使わずともうまく乗り換えればたいていの目的地には行けるのだ。4回乗ったらおつりがくるほどで、なんとなくこの西村京太郎ミステリーのような乗り物の乗り継ぎが私は割と気に入っていたのだった。

今回は、義母の診察券を私が預かり、予め早朝に並んで整理券をもらって時間短縮を図り、ちょっと遠出もできそうな余裕ある滑り出しを企てていた。
とりあえず山手線内の駅から都バスも使って病院に・・・の予定が、軽く遅刻しそうだったので時間を買うべくひとまずタクシーになってしまったが、なあに挽回はできる。もちろん、今回も意気揚々と「都内散策切符」を自宅最寄り駅で買っての、冒険旅行の予定だった。義母にも最初に乗る交通機関でそれを買ってあげるつもりだった。

・・・ところが、今回は違った。
お楽しみを阻害したのは、「かんぴょう」。
看病、ではない。
かんぴょう、だ。栃木名産の、のり巻きにいれる甘辛い紐状の、アレである。
義母は、その日、急いで帰宅してかんぴょうを煮なければならないのだった。来客に寿司を振る舞うための準備である。もちろん寿司ネタもお店で仕入れなければならない。干してきた布団も、洗濯物も取り込んで、掃除をして・・・わかるわあ! 主婦は忙しいのだ。19歳から主婦という、筋金入りの義母ほどの人であっても。

かくして駅から病院までタクシー。またタクシーで駅まで行って、そこから電車で東京駅へ。
義母はとんぼ返りで新幹線に乗って颯爽と帰っていったのだった。

私の手に残されたのは「都内散策切符」である。まだたった一回しか使われていない。あと三回は乗りたい。旅の起点の東京駅の新幹線ホームから電車に飛び乗ってしまいたい情熱を押さえるためにも、この切符は上手に活用したい。
そうだ、東京駅を見てみよう。
義理の姉と一緒に行こうと約束していた場所でもある。
私は東京駅の改札をくぐった。
東京ステーションホテルと赤煉瓦の駅舎・・・が、あるはずのそれらが、なぜかそこにはないのだった。
代わりに地下街が広がっている。ラーメン街、ショッピングモール、東京土産の御菓子達。これは楽しそうだと散歩を始めてしまったのが、そもそもの間違いだった・・・。つづく