都バス・都電・都営地下鉄に4回以上乗り換えてお得な「東京散策切符」をまだ一階しか使っていない私は、東京駅改札に立っていた。
目の前に広がる、楽しそうな地下街。
あらすじ終わり。
さて、この地下街はミニ平城京のように縦横につながっていて、小さなショップが並んでいる。母と食事はしていたので、おなかは減っていないのだが、どんな美味しそうなものがあるのか、どこに行列ができるのかには興味がある。ラーメン街を抜け、ハッピーアワーのビールの値段を何とはなしに調査して、300円雑貨の店に入る。そこは入った場所の裏側にも入り口があり、つまりは道の真ん中の店なのだと思う。
お嬢が大好きなインコの柄の小物を見つけてしまった。ああ、かわいい。
肩の荷物が重くなることを懸念したが、彼女の喜ぶ顔を想像して、つい余分に買い物かごに放り込む。
この夏は頑張ったものなあ。休みなく弓を引いていたけど、受験どうなるのかなあ。
もうすぐ家を出る娘との時間が期間限定になっているからか、競技が佳境だからか、私の頭の中はお嬢のことでいっぱいだった。
親というものはこうも子どものことばっかり考えているのかと時々驚くほどで、うるさくて暑苦しかった親の過干渉がふと懐かしくなった。
あれ、ちょっと待て。
母ヨシコや祖母は実によくくだらないお土産をくれたのだが、それはたいていガッカリするものだったことも思い出してしまった。
「ああもったいない、使わないのに」みたいな想いで受け取っていたのだから、お嬢だってこのインコ柄の雑貨をそう思わないとも限らない。
いや、ヨシコのセンスとは違う、このインコはかわいい。
でもヨシコの買ってきたアートだって、ヨシコには何か突き刺さっていたに違いなく・・・。
一瞬迷ったが、「そうだ、お嬢が使わなかったら私が使えばいい」と思い直し、選ぶポイントを彼女が喜びそうなものから私も好きなものにシフトすることにした。
すると、なんと言うことでしょう!
かごの中のものはいよいよ増えて、持っていたトートバッグに収まらず、エコバックにも収まりきらず、結局ビニール袋を持って歩くことに。キッチン用品とか買えばそうなりますわよね、奥様。←きっと共感の嵐。
重くはないのだが、かさばるものに手を出してしまったのが敗因だった気もするが、この高揚感はなんだ。
すっごいお宝を手に入れた気分で反対側から店を出て、さらにランダムに歩く。
大坂で初めて入ってド派手な印象を受けたH&Mは東京ではモノトーン主体のシックで地味なコーディネイトだったり、鞄のお店はビジネス仕様が多かったり、保険屋さんはバルーンアートで客寄せをするのかと感心したり。
おやおや、この店はさっき見た、この通りは何度か歩いた、と気づいたところで、頭の中の地図が全く出来上がっていないことに気づく。
そうだ、私はダンジョンが死ぬほど苦手だったのだ・・・。
何人の勇者を地下で見殺しにしたか。痛い、心が痛い。
しかし、その屍を乗り越えて私も生き抜いた半世紀、もうそれなりにいい大人である。
解決策はある。
ダンジョンで迷ったら、ルーラを唱えてしまえばいい。あるいはこの二本のたくましい足で、地上に立てばいいのである!
階段を探して、何度か通った道を小走りで急いでみるが、なかなか出口が見つからない。
そうか、ビルにつながる階段をあがって地上に出ればいいのか。
手にはなんだかかさばっているくだらない雑貨、底から飛び出す今日の傘、反対の肩にかかったトートバッグをかけ直し、いざ、ラビリンスを抜ける。
八重洲ブックセンターに来たことがあった、そっち口に出た。
赤煉瓦の建物とは反対側なのだろう。
まずは都バスに乗ろうと思って、探してみる。リムジンや遠距離バスが駅前にずらりと威勢良く並んでいるが、その奥の奥で都バスはずいぶんと小振りに見える。
さあ、東京のど真ん中からどこに行こう!と散策切符を握りしめて走っていく都バスの行き先を見る。
「東京ビッグサイト」「国際フォーラム」
・・・そ・れ・は・ど・こ?
ビッグサイトはコミケの場所で、めっちゃ遠くてめっちゃ暑いところで、えーっとえーっと、じゃあ国際フォーラムって大昔恐竜博でいったことがある浦安の方かも(国際見本市と完全に混同していた)......。
第一乗り場がわからない。バス停に行けば停留所が書いてあるはずとまずは停留所を目指してもう一度地下におりた。
そして、さまよう。
私さ、モグラたたきのモグラの気持ちが、齢50にして何となくわかったよ。あれ一つの巣に一匹じゃなくて、いったりきたり迷ったあげくにいろいろな穴から顔を出す出しているんだとしたら、たたいたら可哀想だよ。
もー。
どこから出ればいいんだ!
やっとたどり着いた向こう岸のビルは「京都館」という観光用物産展常設のスペースだった。
そうだ、京都に行こう。さまよいの果て、東京にいながら京都。悪くない。
舞妓さんの顔出し板があって大変に心惹かれたのだが、さすがに誰にも頼める雰囲気ではなかった。この前も考古学博物館で土偶の顔出し看板があったのに一人だったからとれなかったのだ。セルフで顔出し看板がとれるアプリが欲しい。
とか考えながら、東北復興の匂い袋を買う。
京都を出て、ちょっと歩くと次に見えたのは北海道だった。うにの文字がはためいて踊っている。そこで私は瓶詰めのバターと懐かしすぎる小アップガラナの瓶ジュースを買った。
肩ひもがぎゅっと食い込んだ気がした。
後者専用の停留所は見つけたけれど、乗り場がわからない。
もうさ、この際、ちょっと歩いてみよう。歩いたらきっとビッグサイト行きじゃない、都バスの魚影が濃い場所もあるかもしれない。
私はせっかちなのである。
なんとなく、京都と北海道を旅したので、たかが東京じゃないかという気持ちにもなっていた。どこだって、必ず都バスをみかけるのが東京。古田新太さんはテレビで、自家用車の代わりに華麗に都バスを使いこなしているとおっしゃっていたではないか。それをやる。あと三回は乗りたい。もとがとれない。
こうして、私の都バスを探す昼下がりの地図のない旅が始まった。つづく