立川談笑一門会

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2014年6月27日金曜日。
吉祥寺の武蔵野公会堂で。
自転車で行ける距離で定期的に落語会があって、それもツイッターで呼びかけられればフラリと出かけられる気安さの当日券のみで。
予定が合えば行く。
あわなければスルー。
東北弁の「金明竹」を聞いて以来、毒のある談笑師匠の噺がたまらなく好きで、この一門会は私の幸せな空間だった。
できればあまり人に教えたくない秘密のお楽しみサロンでもあった。

その朝、私の大事な友人二人が別々のちょっとしたことで落ち込んでいた。
いや、彼女たちは強くて賢明な人なので取り立てて落ち込んでいたわけではなかったのかもしれないが、私が彼女の立場だったら確実にやけ酒とやけ食いで蛇含草が必要になりそうなほどの出来事に遭遇していたので、
「もしよかったら落語会があるけど、笑って免疫力を上げてみる?」とお誘いしてみた。

四十過ぎても初体験というのはある。
そして、案外はじめが肝心だったりする。
二人とも落語処女と聞いて、そうか、破瓜するのが談笑一門というのはどうしたものだろうと一瞬逡巡したものの、とりあえず間違いなく面白いので、それなりに安心して連れて行くことにする。
吉原に若旦那を連れて行く先達の気分ってきっとこんなだわね。
ちなみに私の初落語は、新宿の末広亭だった。
まだ寄席はご飯を食べながら、客席でお酒も奥ではタバコもOKの古き良き時代で、初めて見たきょんきょんこと喬太郎師匠はまだ真打ではなく、それでも新作がショッキングでカツサンドをのどに詰まらせたのを覚えている。面白い人の落語を聞くときには腹は減っても飲食しないことを学んだのだが、一般的にホールを借り切る落語会は飲食ナシ。今回、みんな仕事帰りの時間とあっておなかが鳴らないか、ちょっと心配ねってなことを伝えておいた。
ところが、二人とも初の落語会ということで、吉原の大門をくぐった久蔵よりもガチガチな状態。おなかなんかすかない。汗が出る、のどばかりが乾く、知識がないばっかりに全くついていけなかったらどうしようと、軒先に捨てられた白犬のようなまなざしで怯えているのである。
今回は真打ちお披露目興行でもなく節分でもないのに、立川一門の手ぬぐいをプレゼントされるというラッキーがあったので、汗の方は何とかなるとしても、果たして緊張で放出され続ける水分は足りるのか。ただでさえ、水水しさを失いがちな四十代なのに。
というか、私の大事なお友達は何をするにも一生懸命。落語なのに!! 基本、笑えばいいだけなのに。そのタイミングまで気にするあたり、大変奥ゆかしく生真面目なのだなあと知って、かわいさにきゅんとなる。......おっさんか。

前座の笑笑の「真田小僧」で少し笑って、見たことも聞いたこともない吉笑の見たことも聞いたこともない「テレスコ・序」でさらに笑って、談笑師匠のとんでもない枕ですっかり魅了されて演目「火炎太鼓」が火を噴き腹を抱えて、お中入り。
その頃にはすっかり聞く方も練れた感じになっているのが、人生経験豊富なさすが四十代主婦ですよ、おまいさん。
笑二の「持参金」はこれまできいた誰の噺よりいい仕上がりで、談笑師匠も最後の「め組の喧嘩」を終えた後、追い出し太鼓を止めて笑二を褒め、観客の女性への気配りも見せて、一門会ならではの温かい雰囲気を会場に残して、気持ちよく締めた。

軽く飲みながら、今聞いた落語の話で盛り上がるのは実に素敵だ。
落語は同好の士がなかなか見つけられない。受験生になってしまった娘は付き合いが悪い。
でも勇気を出してお友達を誘ってみたら、三人で過ごすすごく思い出深い、いい時間になったのだった。
小僧達の出来が多少悪くても、まあ元気で幸せなら、いいじゃねぇかって。金坊や貞吉や与太郎と比べちゃダメな気もするが。
免疫力も上がって、元気百倍。
日常に潤いを。
落語、おすすめです。来月も談笑一門会はあるし、いやもういろんなところでしょっちゅう落語会やってるし。

今年もいい上半期のおさめっぷりだ。さあさあ、残すところあと半年。あら、もう明けて七月だ。頑張りましょう。