ドロップスのアタリ

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佐久間ドロップのアタリはオレンジ味で、ハッカはハズレだと相方が主張する。
私は断固、ハッカがアタリだと思うと言い張る。
その根拠は?と聞かれて、不安がよぎった。
だって、うちのおじいちゃんが
「ゆうちゃんはすごいなあ、引きが強いなあ。サクマドロップはハッカが一番おいしいんだ。大当たりだなあ」
と言ったもん。って、小学生か!というような根拠なのだ。

おじいちゃんのいうことは怪しい・・・ということは、薄々わかっている。
大変にユニークで面白くてこども好きで、だから大好きだったおじいちゃんは度々このブログにも登場するが、どうも圧倒的に怪しい人ではあった。
茨城から上京してきた時には役者が振り出しで、いつ英語を勉強したのかデパートの通商部の通訳だったり、大恋愛の末駆け落ちしたり、なぜか役所づとめをして出兵を免れたり、発明品の特許を売ったり、書生を置いてみたり、骨董の目利きだったり、ミニ動物園が開けるほどの動物好きかと思えば、盆栽やミニチュアを好んで作り、孫には「実は魔法使いなんだ」と見事な手品を見せ、「こんなものを作ってみたよ」と変な発明実用品を自慢してみせたり、料理好きで、置屋遊びに精通し、金塊や記念コインの収集家でもあり、計算機のカシオミニは発売日に一万円はたいて買ってくるような新しもの好きで、神の手と呼ばれた指圧手技は全国から患者さんが並ぶほどの大評判、いつのまにか東洋医師会のお偉いさんになっていて、大臣の大書が飾ってあったり。
大酒飲みのため、粗相はしばしば。だが、道路で寝込んでタイヤの跡をつけて尚ケロリと帰宅する不死身の人でもあった。
名前は通称と戸籍名と、ふたつ持っていた。
田舎の三男坊が食い詰めて東京に出てきただけのはずなのだ。
口八丁手八丁で巧みに戦乱の世の中を泳いできただけの人なのだ。
いやもう、そのエピソードの数々を今思い出して書いていても、嘘だろうそれ、のオンパレードなんだけど、何しろ話が面白いものだから、仮に身内ではなくてもすごく魅力的な人だったと思う。

そんな詐欺師みたいなおじいちゃんがハッカが一番、といった。
ということは、嘘である可能性が高いと思う。
みんなでこっそり美味しいオレンジ味やらイチゴ味をなめて、ハズレを私だけが「大当たりだ」と大喜びしていた可能性は高い。
でも、私は今の今まで、相方と結婚して初めて「サクマドロップスの何が美味しいか」の話をしたこの瞬間まで、ハッカが一番美味しく、みんなが大喜びする大当たりなのだと信じて疑っていなかった。

小さな頃から、騙されてばかりいる。
とても素直で正直なので、何を聴いても驚きと感動があれば基本的に信じこんでしまい、相手を心底尊敬することが多い。
他愛ない嘘を「知ってた?」と教えこまれて、「えええー、そうなんだあああ」と驚愕すると、「嘘だよー、ばっかだなあ」というパターン。
これは学友にもやられた。バイト先でもやられた。恋人にもやられた。今では相方にもやられる。実によくよく、やられる。
「与太郎扱い」
と相方は笑っている。でもさ、と私は思う。
サクマドロップスはどう考えてもハッカが一番美味しい。美味しい物こそがアタリである。
というのは、私の世界観の中で、ちゃんと成立しているのだ。
おじいちゃんがくれるサクマドロップスの缶には、確かに特別たくさんのハッカが入っていた。そのラッキー缶は、おじいちゃんが私のために作ってくれていたに違いないのだが、別におじいちゃんが自分の好きなオレンジ味を独占するためについた嘘ではなく、孫ごとにラッキーアイテムを変えていて、「今日はラッキーデイだ、がんばれよ」という優しいメッセージだったのかもしれないと思ったりするのだ。
あるいは、一般人にはオレンジ味がアタリでも、エキセントリックなおじいちゃんだけに、一番好きだったのがハッカではないと、なぜ言い切れるだろう。とも、思うのだ。

だから、私にとってサクマドロップスのアタリはハッカ。それは、この先死ぬまで揺るがないのだった。