というわけで、小僧の試合の応援、最もお金がかかりそうな宿泊の部分を安くあげようと思った。
一泊2400円。
ドヤ街の取材もしたワタシさ、地方都市だし、温泉付きだし、ホームページではリニューアルオープンと書かれているし、大丈夫。
灼熱の太陽の下、応援の黒いTシャツには塩の結晶が浮く。
チェックインは決まりごとがごちゃごちゃしていたが、寮生活なのだから当然だ。
カードキーをもらう。セキュリティーは厳しく、インロックだけはしないよう、厳重に言われる。
部屋は刑務所を多少彷彿とさせるが、刑務所に入ったことはないので、心は痛まない。
すぐに温泉に入り、えらく幸せな気分になって、その日はその土地の友達に会いに行った。
全国に友達がいるというのが私の自慢だな。
私の宿の近くまで電車で来てもらい、居酒屋で盛り上がりに盛り上がって、マシンガントーク炸裂。気づいたら10時半を回っていて・・・青ざめる友人。終電が終わっているという。えええ。
タクシーだと一万円近くする距離なんじゃないか。東京で会ったほうが安かったんじゃないか。
教訓・地方都市の終電は早い。
おみやげも頂いたことだし、タクシー代を考えると割り勘にしたら申し訳なさに眠れないと思い、無理やりごちそうさせてもらう。
どのみち宿泊代で浮いた分で美味しいものを食べる予定だったから、惜しくはない。
彼女との楽しい時間はごちそうだ。うちの駅前にあるチェーン店に入って最初の生ビールでは失敗だったかと思ったが、お支払いは比較的安くて助かる。
で、私は歩いて帰り、シャワーを浴びて・・・ビデオやカメラの調整をして・・・早寝をしようとベッドに入ったが、これが眠れない。睡眠不足なはずなのに。
夜食に駅前のコンビニで買ったメガ盛りのアイスクリームと紅茶がなんだか胃にもたれるのだ。
冷蔵庫のスイッチを入れたが、何かと共鳴してしまってうるさすぎて使えない。
何より圏外で携帯もiPadも使えない。
テレビはデジタルチューナーをつけていてリモコンが2つ、そんなのおばちゃんには知恵の輪よりも難しい組み合わせだ。
寝よう。無理しても寝よう。
ウトウトしたとき、慣れた音で起こされる。
私はいつも洗濯機を予約して、その音を目覚まし代わりに使うのだが、まさしく洗濯機と乾燥機の回る音がするのだ。
で、起きた。四時半。
このあたりが一流ホテルと木賃宿との差。コインランドリーは寮生活の必需品だから仕方ない。
仕方ない。
口の中にアイスクリームの甘さがあるような気がしたので、歯ブラシを持つ。室内に洗面所はないから、トイレに行って洗面を済ませようと手拭を首からかけ、もちろんカードキーを持って出た。携帯は圏外なので置いていく。メガネすら不要だ。
入念に歯を磨き、部屋に戻ってカードキーを差し込んだ。
ところが反応しない。
もう一度やってみた。
反応しない。
どういうこと?
カチャカチャ、反応しない。
・・・つまり、私は締め出されたのだ。早朝、携帯も財布もメガネもなく、怪しいロングTシャツ一枚で首から日本武道館の一戦必勝の手拭を下げ、歯ブラシだけをもって。
どうしろと!?つづく