私の国体終了

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朝起きると、なんだか頭痛と悪寒がしていた。
「うまくいっていたら」昨日は近的の決勝だったが、僅差で予選敗退したお嬢に出番はなく、したがって応援団もぽっかり予定があいてしまっている。
とりあえず疲れから体が休めと言っているのだろうと横になったが、
「朝日新聞に載ったってー」
という娘の友人からの報告を受け、それは新聞を買いに行かないと!とゾンビが墓石から這い上がるかのごとく、むりむり起き上がる。
新聞に載ることは私ら中高年世代にとって、誉である。
私は未だに高校時代の部活の演劇評のコピーをとってある。相方の母親は芸大合格者の名前発表の記事をとっておいているはずだ。

コンビニに行き、新聞を買ってはみたものの、どうも娘さん情報とは異なる。
弓道の写真とインタビューというご報告だったが、どこから見ても写真はナギナタで、同じ武道でもマスカットとデラウェアぐらい違う。
これが弓道の写真だったら一気に私の元気も出るのだろうが、優勝したなぎなたの勢いに負けてる、六位入賞のチーム東京の弓道少女。
小さな囲み記事に頭痛が再び、あうあうあう。
あわてて近所の病院に飛び込んで頓服をもらい、もらいついでに新聞の話をすると、販売所に行ってみては?といわれる。
販売所で事情を話し、地方版にはいろいろな種類があることを聞いて、本社に電話してごらんなさいといわれる。
リアルRPGなのか、これは。
すると、私の頭のなかで開会式と表彰式に流れていたドラゴンクエストの交響曲がこだまし、おでこの他に胸が熱くなるのだった。
おお、ゆうしゃゆうたんよ、しんでしまうとはなにごとだ。
いや、死んでないって。頭痛いけど。とりあえず、きょうかいではなく、やどやみたいなおうちに帰ろう。

まだ独身だった私が、並んでファミコンを買って、自分で配線して、寝る間を惜しんで夢中になったドラクエ。
ドラクエの音楽を聞くとあの当時の風景や匂いが浮かんでくる。
駆け出しのライターにはお金はないがまだまだ時間がたっぷりあって、つかの間、勇者になってモンスターを倒していた頃に、相方は全く知らないところでファミコンの漫画を描いていたのだった。
お嬢の年からまだ二年後ぐらいの私が抱えていた未来への不安と希望。(えええ、そんなに若かったのかあの頃!書いていてちょっと焦った、経済的には自立していて、いっぱしの大人きどりだったわ)
開会式で流れた「交響曲ドラクエ」は私には号泣のツボで、それからしばらくして「100パーセント勇気」のマーチが流れるともう、ちっちゃかった頃のお嬢を思い出して、すると今度は今カラオケでお嬢が歌う曲が流れて、「なんだかお嬢、成長!」とか思って、涙・涙の開会式になってしまった。式場に行かなくてよかった。
あれ、選曲した人のセンスを讃えたいなあ。個人的に、素晴らしかった!

初日の猛暑の中、近的競技。
仲間もお友達もお友達ママも見に来てくれた上、東京出場の直前には皇族方も激励に訪れてくださり、プレッシャーが大好きなお嬢には好条件と安心して見ていたが、普段の自分を出しきれぬまま、チームはあと2矢たりず予選敗退した。
翌日は遠的。
予選を通過し、決勝に臨むも僅差で上位に進めず、順位決定戦ではチーム東京の意地を見せて一回戦同様の熱戦を繰り広げたが、普段の三人娘の的中率を思うと6位入賞では悔しさばかりが先に立っただろう。

寸前まで我慢していた涙がみるみるこぼれる、観覧席まで挨拶に来たお嬢。
顧問や応援団に深々とお辞儀をした後、
「くやしい。来年、絶対に勝つ。まだ、強さが足りなかった。このままじゃ、終われない」
と私につぶやいた。
敵が己の中にある競技は、誰を恨むこともできず、すべてを自分が背負うことになる。
彼女は二年生。まだ来年の長崎国体のチャンスはあるが、東京代表は三名、ここから先の大会で常に上位をキープするとなると実に険しい茨の道が待っている。今でさえ半端ない練習量と、どんどんきつくなる重圧。
それでも、高校三年間の残り一年を、彼女は全部全部弓道に捧げる覚悟をしたわけか。・・・それもまた、いい青春なのかもな。

伴走者としては青春の記念の新聞をゲットしないと!
と、自宅から新聞社に電話をすると、新体操の首都圏版、なぎなたの東京版以外、まだデータはないという。
多摩版と川の手版がある、という。
じゃあ出かけなくちゃと思ったところで、薬が効いて私は全く動けなくなり、シャッターが降りるように目の前が真っ暗になって、そのまま夜まで爆睡してしまった。
落ちていく意識の中で、ああ私の国体応援が終わったのだと思った。

素晴らしいことに、いしかわじゅんさんがツイッターで祝辞を下さり、そこに写真が添付されていた。
お嬢、いしかわさんとは生まれる前からのおつきあいである。
本当にたくさんの方に気にかけていただけて、ありがたい。吉祥寺まで買いに行かなくても大丈夫だったのね。

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さあ、来年の国体選手選考に向けて、今日からまた部活が始まる。
江戸の仇を長崎国体で。
私も終わった終わった、と言っていられないのだった。すぐに始まる秋季大会、新人戦。上位進出して秋田に行くぞ、大阪に行くぞと弓道部保護者サポーターたちで盛り上がっているので、バイトも増やさなくちゃね。
そしてベンチだろうと小僧の方の公式戦もチームの応援に行かないと!
熱いよね!!
始まりは終わり、そして、終わりは始まり。