なぜ800メートル

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運動会のシーズン。
小僧は体育委員だ。
配布されたプリントをみてみると、他のお子さんがふたつ、みっつ、係や委員を兼任してクラスに貢献しているのだが、小僧は体育委員だけだった。
同時に配布されていた子どもたちの「初心」表明を読むと、実に感動的で明るい未来が迫ってくるのだが、優秀者選抜であるため、小僧の文章がそこに掲載されることはなかった。
もう脳みそまで徹頭徹尾運動バカ、というポジショニングらしい。
馬鹿なことをやって笑ってもらう、というポジショニングには自信をもったらしい。
朝早くに起きるのはつらいし、疲れ果てているのは歩き方と目の下のクマが物語っていてサッカーママとしては不安なのだが、学校がとにかく楽しいと言い、とりあえずにこやかに出かけていく。
多くは語らないので具体的なことは全くわからないのだが、ちゃんとご縁のあった、小僧には最適の学校ということだろう。
体育の最初の課題が「サッカー」だったのも小僧にはラッキーだった。これが苦手な器械体操だったら、体育委員にはなれなかったと思う。
家庭学習はやらないし、塾に行かせるお金も時間もないので、放課後、図書室に通って宿題を片付けると決めたのだが、どうも休み時間に終わらせてしまって勉強をするという概念はないらしい。
学校から出欠のプリント、宿題、課題などの提出物の未提出を指摘され、早くも私が「いやあああああ! 何、これぇぇぇぇ」とカバンを覗いては驚愕の声を上げたけれど、何はどうあれ、とりあえず高校までエスカレーターなのが私の安心材料になっている。
実は親の気持ちの安定って、大きいと思うの。いい学校に巡り会えたなあ、先生方は情熱的だなあ、道徳的規範も素晴らしいなあ、という満足感は、学校に送り出す親の雰囲気を変えると思う。制服姿を見るたびに、軽くスーツ萌えできる朝は幸せだ。
うっとり。
ところで、運動会の話だった。
小僧は800メートル競技に立候補したという。30メートルダッシュだったら多分誰にも負けない、50メートルもかなり早い、70メートルで追いつかれて、100メートル手前で差されるという自分の個性がわかっているのかいないのか、なぜ800メートルなんだ?
「だって競技が一番長いじゃない? 注目される時間が長いんだよ。走ったことない距離だから走ってみたいなと思って」
いろいろな挑戦の形がある。学業で輝かないのは、それはもう私の遺伝子だから仕方ない。なんにしても、強い欲求が芽生えたのはいいことだし、やったことのない距離にチャレンジしてみたいと思うのも、素晴らしいことだと思う。
・・・グランドなら縦のサイドを4往復。そう思えばペース配分も・・・と言いかけて、そういう計算を教えてしまうのも面白くないだろうから、自分でいろいろ考えてみるのがいいんじゃないかな。とニヤニヤしておく。
ちょっと意外だったのは、クラスリレーの選手も、立候補で決めたということだった。
タイムで上からピックアップするのではなく。
立候補者全員が集合し、自己申告し、アピールポイントを話し、そこから自分以外にこの人というのを挙手するシステムだという。
リレーは、頭も使う。頭のいい、リーダーシップをとれる参謀が不可欠だ。
そういうことはタイムだけではわからない。
本番に強い子は、タイム以上の成果を出すし。
クラスの代表だから、勝っても負けてもみんなの納得がいく民意が必要。
・・・といったところか。このあたりのやり方が、私立っぽくて面白い。
どんな運動会なのかなあ、と、無類の運動会好きだった私がワクワクしていると、小僧に訂正された。
「体育祭、だからね。お母さん、もう小学生じゃないから」
そうだった。
もう小学生じゃないんだった。
なぜ800メートルを走るのか。小学生じゃないから。・・・うん、いい着地。