シュートが入らないフォワード

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小僧は足だけは速い。
ミッキーマウスみたいな大きな足でバランスは悪いのだが、走るフォームだけはMr.インクレディブルのダッシュみたいで、ちょっとかっこいい。
100メートルになると時々後半に垂れて馬群に沈むけれど、おそらく30メートルの初速だけなら圧倒的な速さを誇る。
で、サッカーはボールに飛びつく最初の数メートルで差が付けばいいから、とにかく走れ、走れ、小僧!! ゴールまで走れ! ということになる。

センターバックという守備の要の時には、相手の得点者・フォワードを一気に追い越していけば、俊足はかなり目立つ。
サイドバックという、長友や内田のポジションの時には、ボールを誰かに預けた瞬間、とにかくゴール目指して一目散に駆け上がると、なんだありゃ。と、とても目立つ。
五年生でチームを移った時、小僧は体もそれなりに大きかったし、「ポジションは守備で」とコーチから言われていた。
が、この一年で周りはぐいぐい大きくなっていったのに、夜更かししては漫画を読んでいる小僧の背は伸びず、相対的に小さい人になっていった。
気持ちも小さいままだった。
強いチームを作りたければ、守備陣に心も体も強い選手を置くのが定石だ。
そういうわけで小僧は、どんどん前めのポジションに送られていった。
ポジション未定のままベンチを守ることが多くなれば、使い方はスポット的なスーパーサブということになる。フルで出るわけではないが、ここぞという時に出ていって引っ掻き回してこい! という役どころである。

うまくパスが通れば、小僧、かけっこでは負けない。
しかし、小6でうまいパスが回せる選手は限られた逸材のみである。
左右両足で同じように蹴れるから、小僧のシュートは持ち替えない分、早い。
しかし、ゴール前にはたいていゴールキーパーという守護神が立ちはだかっていて、余程のシュートでなければキーパーにとられてしまうのだった。
かくして、小僧のフォワードとしての反省課題は、常に「得点を決めたい」になっている。
では、練習しているか。
というと、どうもやはりゲームと漫画で忙しいらしい。
私が「痩せたい」と百万遍唱えたところで、このままの生活では一グラムも痩せないように、「得点を決めたい」と毎度サッカーノートに書いたところで、練習なしに決められる選手にはならないのである。

しかし、小僧は幼稚園の時に無回転シュートを蹴りたくて園庭で練習し、練習しすぎて股関節をやってしまって、泣きながら車椅子に一週間乗ったオトコである。練習試合に負けた日には、100本シュートを蹴って気持ちをなだめてきたオトコである。やるときにはやってくれる、私は親としてそう信じていた。

そう信じて待った。

待ったけれども、なんか覚醒するその時はまだやってこないみたいよ。

シュート練習しているところなんかついに見なくなって、多分小僧は決められないFWだけど仕方ないよね、Aチームでトップ走るバリバリな感じではないけど、とりあえず毎回ちょっと出してもらえるし、いいかな。というところで満足してしまったように思われる。
んー。正直、ここまでかあ・・・。
もとより、シュートが入らないフォワードなんか価値がない!! みたいなスパルタンな事をいうチームではない。
つまり、小僧の意識が自発的に、「外した。とても生きて帰れない。死ぬか。いや、死ぬ気でシュート練習だ! 」ぐらい悔しい気持ちにまみれて、スイッチがオンしない限り、今以上のレベルに行くことはないのだ。
大きな挫折があれば、また変わるかもしれない。
しかし、挫折を願う母親ってのもなんだかなあと思う。
ただひたすら前で走るだけの小僧を見ているのは、なかなか切ない。
ちゃんとボールに絡んで、ボールをコントロールして、シュートを決める、カッコイイところを見せてくれよと思う。

いつまで待てばいいのかなあ。
待っても、待っても、痩せないもん、ただ待っていたって、シュートが入るようにはならないよなあ。
たくさん練習すればいいってもんでもないのはよくよく知っている。
でも、シュートが入らないんだから、地道にシュート練習しないとダメなんじゃないかなあ。
シュートが入らないフォワードなんて・・・と、しみじみ思っちゃうんだけれども。

そういうこと言わないのも、親の大事な仕事だから、こんなところにちょっと愚痴ってみた。