住めば都

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旧友のサッカーパパから電話があって、ご子息が名門高校サッカー部に進学決定した! という。
よかったよかった。
選手権に出るような高校の多くは、予めサッカー部の入部テストがある。
その上で、中学の成績で内定をもらうか、試験を受けるかしなければならない。
運良くサッカー部に入部しても、レギュラーは11人。AチームBチームCチーム......と実力で分けられ、そのチームの中でまたポジション争いがあり、選ばれた戦士たちが学校の名前を背負って試合に挑んでいくことになる。
身長が175センチを超えた、今年卒業する15歳の戦士に、武運長久を願う。まだボールすら蹴れない、ヨチヨチ歩きだった頃を思い出し、不思議な気がする。

その彼の試合を最後に見たのが、彼が小学5年生の時だった。都大会常連のクラブチームに所属していた。
小僧がサッカーを始めたばかりの頃だったから、サッカーに関するどんなことも楽しかった。
小学生の可愛いサッカーを想定して見に行って、その高いレベルに驚いたのをハッキリ覚えている。
パスがまわる。サイドを使える。センタリングができる。
シュートの威力が違う。どこからでも打つ。当たりも激しい。
小学世代のサッカーは、実に侮れない。
真剣に見ていた小僧が幼稚園でもセンタリングを使い出し、ドリブルの他にもパスを選択できるようになったのは、自分の姉と大差ないお兄ちゃんたちの試合を見てからのことだった。
親バカ全開でいけば、幼稚園の頃の小僧はサッカーの天才なんだと思って、私もどうかしていたから、いい試合をたくさん見せたい!とDVDを買いまくったりしていた。
もちろん、小学校に入り学年が上がるにつれて、「ただの人」になっていくわけで、それはそれでちゃんと社会に適応できている証拠でもあり寿ぐ気持ちはあるものの、こんな運動音痴の姉ではなく、トレセンに選ばれちゃうような兄がいたら、小僧のサッカーは随分違うものだったのだろうなあとも思う。

六年生になって、背番号をもらった。
小学生は8人制なのに、二桁の、なかなか微妙な数字だった。
ベンチスタート、ということなのかなあ。スーパーサブ的な使われ方だろうな、とかまあ、モヤモヤは晴れない。
それでも、小僧は今のチームを愛していて、誇りを持っていて、練習には嬉々として出かけていく。サッカーの前に宿題を終わらせなければ欠席と決めたら、帰宅後即座に宿題に取り組むようになった。チームから言われたことは順守する。チームメイトとは実に円満に、仲良くやっている。理想的なサッカー小僧である。
サッカー選手としてはともかく、人としては「楽しく正しい」道を歩いているように思う。

この先、六年生の一年間をサッカー漬けで過ごすのを見届けたい。
中学世代、クラブチームか部活サッカーかを選択しなければならないが、小僧はどう考えるだろう。どちらにしても、もっともっと練習はきつくなる。
熾烈な戦いを経て、小僧にも高校サッカー選手権を目指せる根性が身につくのだろうか。ユースにいく実力が磨かれるだろうか。
それとも、全然別の志をもつのか。
小学生だった彼が高校選手権に挑むまであっという間だったのだから、先は遠いようですごく近い。

どんなチームにいても、マイナスもあればプラスもある。
私はサッカーをずっと好きでいられる場所が、何より一番だと思う。
生きづらさを持って生まれた小僧が、サッカーと出会えて、今のところ全部好転している。
だからサッカーにご恩返しするためにも、それは草の根としてサッカーを支えるサッカーファンで在り続けられるように、どんな形でもサッカーと関わっていけたらいいなと願っている。

旧友のサッカーパパは、応援やヤジについて愉快そうに語った。
あら。うちのチームは審判の判定に一切文句をつけないことが前提だと保護者会で指導されるし、応援もナイスプレーを褒めるだけよと言ったら、
「つまんなくない?」
と聞かれて驚く。いや、つまらなくはないよ。ずっと、そんなもんだと思ってた。
「ストレスたまらない?」
うーん、お嬢の弓道は何時間も待って5分の出番で、応援も無言だし、当たっても「射!」と言う掛け声だけだし。それに比べれば、「ナイスプレー!」は言えるし、ゴールが決まればサポーター同士でハイタッチはするわ、歓声は上げるわ。ストレスはないよね。
そういえば、チームによっていろいろな応援の方法があると思い当たる。
怒鳴り続けているコーチや監督もいる中で、うちのコーチは指示をせず、良いプレーは褒め、別のアイディアを提示し、選手に考えさせている。小僧も私もそんなコーチたちが大好きだ。
死にものぐるい、とか、殺し合いだぜ! みたいな雰囲気にはイマイチ欠けるのほほんさではあるが、五年生で移った今のチームは、きっと小僧に合っていたのだと最近特に思う。
仲間に入れていただいてやっと一年、サポーター仲間たちも和気藹々としている。世に聞くモンペ系もいないし、何より怒鳴る親がいないわ。
多分興奮して「ナイスプレー!」「さんきゅー!」「うわあ最高!」と一番うるさいのは私だと思うから、サポ仲間は私をどう思っているか考えてちょっと怖くなったが、でも選手全員が大好きで、選手全員をまんべんなく絶賛しているので、多分、みんな半ば諦めて気持ちよく受け入れてくれている気はする。
住めば都とは言ったもんだなあ。と、思う。
ブロックが違って、ちょっとばかり遠いけど、すごくいい。
私は、本当に小僧のチームが大好きだ。

あ、今。
恋に焦がれて鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす、なんて都々逸が浮かんだ。
うちのチームのサポーターは、実はどこよりも誰よりも、熱かったりするのかもしれないとも思う。
それはそれで、私の好みだわ。