そこで、商店街の福引券を頂いた。
福引は、商品券争奪・ダーツとガラポンである。
「そういうの」が得意な小僧は、毎年、結構な商品券をいただいてきた。
それで行ったことのない店に行き、久我山商店街が大好きになるという、思う壺な戦略にすっかりハマっているのだった。
福引前に、久我山在住の仲良し君を誘ってみた。
もしも当てたら、その子と、その子のママと、商品券でお茶をするのはどうだろうと思ったのだ。
でも、携帯は留守電だった。
残念だねぇと小僧と話しながらダーツの前に立つと、なんとその仲良し君は、すでに一等を二本もとっていたのだった。
「うわー、なんかプレッシャーがかかるなあ!」
私が500円の商品券の島に狙いを定めていると、仲良しママから電話があった。
「今は手が離せない。あとで電話するわ」
とすぐに切り、トライしたけれど、案の定、私のダーツは沈没に次ぐ沈没であった。
「さっきはごめんねー。福引ダーツの最中だったの」
と電話をかけ直す。そして開口一番、
「聞いたわよ、一等二本だって! 親孝行ね」
「そうなのよー。で、ハーゲンダッツ買って、今、帰宅したところ」
「あら、すごい贅沢じゃない!! お子は、一等当ててなんて言ってた?」
「それがさー、『これで塾代払えるかなあ......』って言ったのよ」
「えええ。何、それ。孝行息子すぎ。そりゃ、ご褒美だわ。ハーゲンダッツ買うわ」
「でしょ、ハーゲンダッツ、買ってあげようって気になるでしょ」
なる。ハーゲンダッツ、三個買ってもいい。
信じられないけど、世の中には、そんな孝行息子がいるのである。
ところで、うちの小僧も二等をゲットしていた。
「でかしたー! さて、何に使おうかな。じゃ預かるよ」
とスッと手を出したら、
「えー、なんでお母さんに渡すの? 俺が当てたんだよ」
と言いやがる。
「だって、福引券のモトは、お母さんが払ったんだよ」
「えー。じゃあ半分こでしょ」
「ななな、何言ってるの。これは貴重な食料を買う資金になるんだよ」
「食料? んじゃ、寿司だな。寿司を食いに行こうよ、おかあさん」
どこまでも享楽息子なのである。
かくして、我が家ではハーゲンダッツを買うことがないのであった。
もちろん、寿司を食う余裕もない。