週末、私たちは寄席に行った。
娘の趣味を、ご学友と親友たちは知らないのだそうだ。
「だって、言えないよ。ずっと前、寄席に行くって言ったら、どんなババアだよって大爆笑されたんだもん。絶対にウソだと思われたし」
まあね。東京ディズニーランドと池袋演芸場、平日休みの日にどっちに行きましょうかということになれば、普通の中学生はTDLに行くからね。
「同じねずみなら、左甚五郎の人情噺の方が」
マイノリティーだね。
で、ないしょなのだそうだ。
それが社会を生き抜くということなんだろうなあ。
以前も書いたが、ジャニーズより柳家という娘は、三三師匠もさん喬師匠も好きだが、やはり喬太郎師匠の贔屓である。CDは全てiPod touchに入っていて、you tubeはもちろん、録画した落語番組も喬太郎師匠は必ずチェックする。嵐の名前は言えなくても、「寿司屋水滸伝」に出てくる登場人物の名前は全部言える。
そんな娘を連れて、松崎寄席へ。
松崎とは、伊豆の先っぽの方。海が綺麗な西伊豆の街である。
いわば、超おっかけだわ。
しかし、師匠に逢いたいと思いつめ、毎回演芸場に行くたびに師匠の著書を持ち歩いてすでにボロボロにしている娘を想えば、下田から車で走れば小一時間の場所。
下田帰省のついでに松崎経由で帰れば、お安い御用な気がしたの。
主催者の松崎町商工会議所には知り合いがいて、東京の独演会ならあっという間に前売り売り切れ必至のチケットを押さえていただく。しかも、図々しくも学生割引を適用させていただく。
開場の前から受付に並び、一番前に陣取って、気合い充分。
それも愛。
さて、高座まであと一時間だね、待ち遠しいね、というその時に、主催者様がこっそり耳打ちしてくださった。
「サイン、くださるそうです」
東京からの追っかけという事情が加味されて、ななな、なんと師匠の楽屋へ。
いやーん、私ったら気の利かない、師匠にはもちろん、主催者様にも手土産一つなく。
ぱくぱく、酸欠の金魚みたいになっている親子ふたり。
師匠、気持よく、娘の名前入りで、ご丁寧なサインをくださいました。
夢見心地の娘はその後も、ふわふわしていて大変だった。
聞いたのは、「たらちね」と「時そば」中入り後は「抜け雀」。
枕も入らない、直球勝負の古典。いつもの喬太郎師匠に比べて生真面目すぎるきらいはあったけれど、いやあ、噺は相変わらず素晴らしかった。
もちろん車で帰る道すがら、土肥温泉のあたりで「そば」を食べる。
もうね、師匠の時そばを聞いたら、そば、食べないとね。収まらないや。
「あああああ、幸せ〜。自慢したい〜、でも自慢できない〜」という、上機嫌な娘の複雑な想いを乗せて、一路東京へ。
主催者様、ありがとう。
喬太郎師匠、ありがとう。
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