何が悲しいといって、ソーセージのこぼれ落ちたホットドッグほど悲しいものはない。
娘を早朝、駅まで送り、その足で大学に。
朝ごはんを食べないと10時、試験開始と同時に絶対に頭が回らなくなるので、ちょっと贅沢にホットドッグ&モーニング珈琲の朝食を摂ったのだ。
で、こぼしたのね。
最後の二口ぐらいで。
試験用のノートを見ていたのが悪い。
ソーセージさんに対して失礼だったのは事実だ。
でも、しまむらで買った……だからちょっとだけ冒険のスカイブルーの、目にも鮮やかなオニューのヨットパーカーに、ズベシャッとケチャップとマスタードの跡を残す抗議の仕方は納得がいかない。
そして、残されたパンは、味気なさで報復に加勢する。
……私が悪かったです、お行儀悪かったです!ってば。
大雨で、学生ラウンジはフロアがぬれていて危ないことはわかっていた。
わかっていたのに、トイレを済ませたら身も心も軽くなっちゃって、ついうっかり階段を駆け下りた瞬間、バランスを崩した。
スローモーションでごごごごごっと尻で階段をすべる私。
軽いぎっくり腰のためにコルセットを巻いていたのが効を奏したわ、と苦笑いで立ち上がる。
しかし、そこでたいした痛みを感じていなかったのは、これから試験という緊張感と、朝からの腰痛と頭痛のために鎮痛剤を飲んでいたからで、本当の戦いはまだ始まっていなかったのだ。
帰宅後、風呂に入るときに鏡で見ると派手なモウコはんができており、赤ちゃん返りかよと突っ込みつつ、押してみたら、あまりの痛さに飛び上がったのだった。
ついてないときはついてない。
そういうときはおとなしく嵐が過ぎるのを待つ。
試験は人事を尽くした。過去を振り返らず、次のレポートだ。
日韓戦にカタルシスを求めていたんだが、負けちゃうし。
朴智星はすごいなあ……と、息子のサッカーを見てきたばかりだったので、比べてため息をつく。それがどんなに無謀で不遜なコトかはよくわかっているわ。でも、これは、キーバーグローブを買ったからという理由で、全試合、キーパーを志願するバカ息子のおバカぶりにあきれるより、せめて、パク選手とのあまりに遠い距離にあきれたい親心というものなのである。
息子、明日10歳の誕生日。
プレゼントのリクエストは自転車だ。今日、買いに行くから、その前に郵便局に行かなくちゃ。
「えー、そんな日常品! あとしばらくしたら体のサイズが変わるから、自動的に買ってもらえるのに、プレゼントの特権を使っちゃうの? わかんないなあ!」
と娘は驚いている。娘はドンキホーテで買った、1万円の廉価版に乗っている。小僧がほしがっているのは、とんでもなくお高い自転車なのだが。
「でも、Pさんはたいてい食べ物が一番いいって言うじゃない。プレゼントもあわびとか牛肉とかばっかりほしがるじゃない。ごはんなんて、何食べたっておなかいっぱいになるのにさ。僕には全然、わかんないよ」
それを価値観と言うのだ。
我が家は全員価値観がバラバラなので、個性や権利の尊重という点で、早くから訓練がなされていると思う。
相方は、今度ハーフマラソン大会に出るので、調整に余念がない。
私は夏に、ほぼ一ヶ月、毎日9時間耐久スクーリング@大学が待っている。
互いにお金を詰まれてもイヤだというその時間を、それぞれが楽しみにしているのだから、変な夫婦なのだ。
今日は久しぶりによく晴れて、心なしか五十肩も調子がよいわ。
ケチャップのしみも、ちゃんと取れた。
腰はまだ痛いけど、無理してまわしすぎない!という警告だと受け止める。
バカな子ほど可愛いとはよくいったもので、私は息子を溺愛してこの十年が過ぎた。その半分は少年サッカーと関わっていて、パクチソンとの差は埋められずとも、もう十分に親孝行である。
消え物に価値を見出す点で同じ傾向を持つ娘とは、いよいよ話が面白い。
嵐が過ぎ去った後のキレイな風景は、嵐が来る前にもきっと見えていたものなのに、嵐の後に見るといっそう輝くもの。無理せず、初代アシモが歩く速度で、日常を送ろう。そんな日常を、愛している事を、思い出そう。
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