2010年05月07日

五七五

くしゃみして オレの体に 春のかぜ

花粉症の母、詠めり。

「それ、もらっていい?」
というので、もちろんダメですという。
パクリは泥棒だ。特に著作権がおまんまの種である両親に育って、何を言うか。
そう聞いて、小僧は本当に泣きそうになる。
宿題で俳句を作ってこいと言われたけど、全くわからない。普通なのはダメだといわれたから、もう絶対的にわからない。
朝早く目覚ましが鳴ったのは、それか。春眠を 切り裂き朝から 句作りかっ! ああ、いくらでも出てくるわ。
俳句なんてもんは、今自分が一番人に伝えたい、知って欲しい気持ちを伝えるもんだ。それは何だ?
「先生が、そういうんじゃなくて、春をテーマに…」
「だまらっしゃい! 先生がなんと言おうと、伝えたい 俳句の心は 今のオレ! さあ、今、何が一番嬉しくて楽しいのか」
「何がおいしいかってのもあるよー」
と、うちのくいしんぼ女子中学生がちゃちゃをいれる。筍とか、旬のものは季語だからねぇ。(舌なめずり)……って、こいつの頭は食い物でいっぱいである。花よりも 団子ばかりの 女子学生なのである。
「何もない。胃が痛い」
「……じゃあそれを詠め」
「いやだよ、春の海とかが使いたいんだよ」
「小僧、冷静になれ。冷静になったら、その小さな脳みそをフルに使って思い出せ。春の海なんか、行ってないだろが」
「だあかあらあ! 困ってるんでしょ」
「何言ってんだ! おばかさんだな。このゴールデンウィーク、君はずっとサッカー漬けだったじゃないか。その景色こそが春の海よりも美しいものだ。春の芝 青みが増してる ピッチ君!」
「春の芝?」
「そう、なんだっていいの。芝の上で何を思った、何をした」
「ずっと練習してたよ」
「何を」
「無回転シュート」
「じゃ、そのまま書けばいい」

練習愉し、とか、気持ち新たに、とか、初心に返る、とか、ただひたすらに、とか、無心で挑むなどとすると、句としてはもっといいんだろうけど、いいんじゃないか、いかにも無骨で、小学生らしくてなあ。
「……あんまりにも、普通すぎない?」
「春の芝生で無回転シュートをずーっと練習するのが普通か? 春の芝生では昼寝するもんだ。無回転シュートを練習し続けるのは、この辺じゃお前ぐらいしかいないよ。それこそがオリジナリティーだ! 自信もって行け」
と、そのランドセルの背中をぐいと押した。まだ泣きそうな恨みがましい上目遣いで、「いってきます」とぼそっと言い、小僧は出かけていった。

ピッチでは あんなに自信が あったのに

朝から一体、何やってんでしょう、鈴木さんちは。ああ、私だったら山菜をテーマにして…とかいつまでもおいしいものを夢想してやがる娘ちゃんも学校に追いやり、やっと一息。
このゴールデンウィーク中、おばあちゃんを外出させてみた話とか、そこで買ってもらったシューズ履いて仲良しさんと小学生フットサル大会に遠征し、優勝した話とか、いろいろ書きたかったんですが、吾の頭 五七五で いっぱいで。

2010年05月07日 10:41