万華鏡

家庭教師

今日、福助の家庭教師がやってくる。
臨床心理士の学問をされている大学院生だ。福助の出した条件は「美人であること」だった。
うむむむむ。
記憶力が尋常でない彼にとっては、人と関わる上で、健常の人よりもずっとたくさんの情報を処理することになるから、知りあう人が美人である快感は一般人よりずっと大切なのかもしれない。
先日、漫画家の海野やよいさんが遊びに来てくれたのだが、福助は6年前に彼女に会ったときにマックシェイクをご馳走になったことを、未だに忘れない。明らかに普通の子と脳みその使い方が違うのだから、そこはやはり希望を重視しよう。

今、彼には多分｢困り感」がない。
違った脳みそを使う彼の、直感画像の能力、瞬間の計算力、ボールやゴールや勝利に対する執着は、サッカーにおいては大変に役立っている。
「普通じゃない」と評されるたびに、ま、ある意味、普通じゃないからなあと思ったりする。
そうなってくると、これはもう障害とは呼ばないのだが、先手必勝が身上の私としては、「違う脳みその使い方」が違和感になったとき、二次障害としての精神的な病気を懸念している。
もちろん今はいい薬もあるし、精神保健衛生士を目指して大学で学ぶ私にとって病理に偏見はないのだが、苦労は買ってまでする必要がないと思っている。これから起こりうる問題の予測ができるのだから、親としてすることはひとつだ。
正直、病名における偏見との戦いもある。ここにこうやって書くことを、わが子のプライバシーを公表するなんて！とお叱りを受けたこともある。
だが、他人がどう思うかなんて、関係ないのだ。
何がどうであって、福助は私の大事な王子様である。
こんな風に公表することで、同じ立場で気がラクになる人もいるだろうし、書くことで私自身が癒されている。気持ちの整理もできる。
インテリジェンスのある人なら、病名でなく、福助を見てくれるだろう。今、幸せに生きている福助自身を。

福助は、入園前、発達障害と診断された。
しゃべらなかった。裏返したジクソーパズルをサクサクこなし、姉の九九を全部記憶し、日本語よりは姉が好んで見ていた英語ビデオで覚えた英語を話し出し、与えたおもちゃはおよそ開発者の想像したようには遊ばない。例えばミニカーは、リビングの床に縦列駐車するのがお気に入りだった。
おむつはとれないまま、名前もいえないまま、幼稚園に行った。大きな音は苦手で、お歌の時間にはロッカーに隠れてしまう。校庭を走り回る、廊下で寝てしまう、ダンスはできない。
ここにも、再三書いたが、落ち込んでいる暇はなかった。
福助にとっていいことを模索するのに精一杯で。
情熱溢れる先生方と、理解あるママ友達、クラスメイトのおかげで、徹底的な訓練を施すことができ、卒園の頃には「誰が発達障害でしょうかクイズ」をやっても、多分福助は引っかからないだろうと思われるほど、「まとも」に見えるようになった。
年中で始めたサッカーは学年を超えて試合に出るようになり、一度で覚えるルール、ワザ、駿足を活かして得点王にもなり、その自信は｢友達の大切さ」につながって、ボールを介して、たくさんの友達を作った。
ＩＱはバランスが悪かった。よい部分では特出し、全部がそうなら天才児待遇だったのだろうが、悪い部分は特別支援対象だった。
アメリカのボストンなら、ギフテッド(神様が下さった才能)として扱われる成績も、おしなべて平均的であることを望まれる日本では障害者なのである。
全面的に与太郎なら、愛されキャラとしての与太郎としての道を。
とりあえず特出した部分があるのなら、一芸必殺の可能性も。
おとうさんもおかあさんもギリギリの変わり者だし、娘はスーツ姿を見ると怖がる始末の親たちの友好関係。小僧は公務員や会社員にはなれないかもしれないが、何かの才能で食っていける大人になればいいのだ。
変わり者の小僧を気に入ってくれる、変わり者の女もいるだろう。うちの相方にくっついた、私のように。夫婦仲良く、一生懸命仕事をこなし、週末はサッカーをして友達とも過ごす。
それ以上の幸せなんか、ちょっと思いつかないわ。

男の子は、男の子であるというだけで、バカである。
という言葉を頂いたことがある。だから、放置しても多分平気かもな、と思うこともある。
それでも、視覚優位は変わらず、聴覚はもっと補強したほうがいいし、ソーシャルスキルとして相手への思いやりはたくさんたくさん学んで損はない。
美人のさっちゃん先生(仮名)と過ごす時間で、福助が何を学び取れるかはわからないが、人との出会いは必ず必ず強運に満ちている福助である。この出会いが、またいい方向に彼を導いてくれると信じたい。
心理学の先輩であるさっちゃん先生の指導法を見学することは、私自身の勉強にもつながる。わくわくしながら、掃除をしちゃったのである。早く夕方にならないかな。

2009年11月30日 13:03