うちの母・ヨシコが、大怪我をして、歩行困難になってからおよそ一ヶ月。
もともと大変元気な人だし、気力と根性は私以上の、折り紙つきのハイテンションな人なので、心配はしていなかったのだが、予後があまり芳しくないらしい。
右手にスイカ、左手に自作の煮物を抱えて、「タクシー待つより、早いと思って!」と、わしわし歩いてきた時代を思うと、すでに手ぶらであっても、もう我が家への坂道を一人で登ってくることは難しいんだなあとふと考えて、ちょっとしんみりしてしまった。
書道家なので、歩けなくても仕事はできるが、片ひざ立てて書く、半切への大書は難しいだろうな。彼女の大きな字は実にダイナミックで繊細で、うまいんだ。私自身が小学生の字だけに、嫉妬するほどうまい。得意な分野をもぎとられて、いらちが太極拳並みの動作になって、彼女の精神状態の方が心配だなあ。とりあえず、うちの小僧のかっこいいブロマイドを送ってみる。
みなさん、突然の事故、重々お気をつけて。
まあ、気をつけててもあってしまうのが、事故なんだけど。
私の祖母・登美は、いわば起きたっきり老人で、80代の声を聞いても毎日和服でばっちりお化粧して、どこかに出かけては歌を詠む、大変元気な人だった。ある朝起きてこないので見に行くとポックリなくなっていたという、大変に元気な死に方をした人だ。
だから、どこかで、老人というのは趣味を楽しみ、満足したら死んでいくものだと、勝手にストーリーを当てはめていたような気がする。
けど、現実はいろいろあるのよな。
そう、うまくはいかない。
自分にとって都合よく捻じ曲げて理想を見るんじゃなく、どんなリアルがやってきても、しっかり受け止められる強い自分でありたいなあと思うよ。
母・ヨシコ、がんばれー。
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