海外に引っ越していった幼稚園時代のお友達とその仲間で、懐かしすぎる公園に行った。
ボールが一個あれば、それでサッカーができる。
海外でも有名なチームの下部スクールにいるT君は、シャイだった昔が嘘のように今や二ヶ国語を操るバイリンガルで、頭も体格もよく、堂々と強力なシュートを放つ。
福助とは別の少年団に所属して不動のエースのI君は、勝気さを生かして果敢にドリブルをとりにいく。体は大きくないが、あたりが強い。スペースに走りこんでゴールを狙うあたり、よいFWなんだろうなと思わせる。
いつもはインドア派の動物博士、H君と遊ぶのは久しぶりだ。彼だけが、今も昔のチームに所属していて、面倒見よく、幼稚園児たちの立派な先輩である。今は週一プレイヤーだが、汗をびっしょりかいて、実によく走る。
今の半分ぐらいの丈だった幼稚園時代に、四人は同じチームにいたのだ。
まだ動物に毛が生えたぐらいだった幼児期には、皆、同じように動物だったのに、4年たった今は、それぞれが、別々のポジションにいて、それぞれに得意なことが違う。
一対一では絶対の強さを誇る福助も、パスをまわされて翻弄されたり、ついうっかりハンドをとられたり。みんなでケラケラ笑いながらサッカーをしている姿は本当に楽しそうで、旧友って出会った頃の時間に引き戻してくれる貴重な存在なのかも、と、なんだか胸が熱くなった。
おむつのとれない福助を、言葉の話せない福助を、教室から脱走して走り回る福助を、決して人前で踊れず歌えず、教室の隅っこのロッカーの中で耳をふさいでおびえていた福助を、教室の真ん中で突然寝込んでしまう福助を、初めて友達として受け入れてくれた人たち。大切な、大切な、私にも福助にも大切すぎる仲間だ。
「その頃のことは忘れちゃったわ。もうずーっとサッカー好きの福ちゃんっていうイメージしかない」
と言われて、すごく上手に健常のフリができるようになった福助に、サッカーにのめりこんで上手にごまかしてこられた福助に、負ければ必ず泣きながらシュート練習し、故障するまで走り続けた君に、よくがんばったね。と言いたかった。
明日から合宿なので、あるいは親族の家に顔見世に、お兄ちゃんの夏期講習のお迎えに、と、それぞれのおうちの事情で、夕方に別れる。
帰宅後、福助は明日から始まるスクールの夏合宿の準備を再確認して、ご飯を食べてから、改まって髪を切りたいと言い出した。
えええーっ、もう美容院はやっていないよ。坊主でいいなら、おかんがバリカンで……。
「坊主でいいよ。アピールになるから。優秀選手賞を狙っていきたいから」
というので、丸坊主に。
いつからこの人は、こんなに本気になっていたのだろう。
ただボールを追って皆で走っていれば楽しかったはずの日々が、少しずつ形を変えていく。
まだまだ細くて折れてしまいそうな首や肩が、いつかがっしりして、その本気に体が追いついていくまで、おかんは君のそばにいたいよ。
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