桜、散る。
残念といえば、残念。
報告書も検査も、9倍の難関に持ちこたえるものだったはずだと、親としては悔しい。
不合格といわれて喜ぶほどMでもない。
でも、すごく正直なところ、受験番号がなかったとき、気持ちの上で清清しい気がしたのだった。
「終わったね」
「うん、終わったね」
「いやー、楽しかったね」
「うん、楽しかった!」
「がんばったね、お疲れ様」
「うん、がんばったよ。ありがとね」
「こっちこそ、ありがとうだよー」
と、対等に話しながら、にこやかにバスに乗った。
「不合格でこんなに笑ってる子も珍しいと思うよ」
「迷わないですんだからねー。きっと、私に一番あっているのは、あの私立なんだよ」
去るものは追わない。
生き方としてとても正しいと思う。
「あんたを落とすなんて、見る目のない学校だよ」
と、一言本音を炸裂させてみた。
「んふふ、そうかもねー」
小学校ではたくさん自己実現して、受検に合わせて成績も右肩上がりだったから、多少自尊心は傷んでも、彼女の自信は揺らがなくてよかった。そういうご指導をしてくださった先生方に、感謝したいと思った。
ラーメンのストラップが欲しくて200円を投じたガチャポンで、一番ハズレの春巻きを二度続けて出すような運のない女だったが、人生万事塞翁が馬、今回はもしかすると一番いい目が出たのかもしれない。
もし今日、ここに受かっていたら、娘ちゃんは迷いに迷っただろう。
すでにみっちり相思相愛、自主自立、個性尊重の、娘ちゃんにぴったり合った私立の方をあきらめても、先取の気風にあふれ、経済的に親孝行で、名前の聞こえもよい公立の方をあきらめても、どっちにしても何かあるごとにいつも「もしもあっちの方の学校を選んでいたら」と、たちの悪い後悔に取り憑かれていたはずだからだ。杞憂に終わって、よかった。
右手腱鞘炎娘の、いい受け皿があって、よかった。
すでに彼女の中では留学が具体的になっており、まだまともに英語もしゃべれないというのに、希望に満ち満ちていて結構なことだ。
桜散り、若葉金色に輝く。といった風情で。
「あ。入学式に、お父さん、金髪のまま来られるね!」
そっちの金色も大丈夫だ。公立だとさすがにちょっと浮きそうだったけど、あの私立なら。
ちょっと特殊な職業の、我が家的にもうれしいのだ。
ところで学校はいくつも選択肢がある。
では、サッカーはどうだ。小僧の行きたいチームはたった一つだから、受け皿はない。
そのセレクションの下見に行って、あまりのレベルの高さに絶句した。
小僧のサッカー受験勉強には、娘ちゃんの国語や作文のようにマンツーマンで付き合える自信がない。予備校や塾もない。それでいて競争率はまさしくすさまじいことになっており……。
一難去ってまた一難。
こっちはもう小僧に孤軍奮闘でやってもらうしかない。
で、桜散ったとき……こんなに清清しくいられたらいいんだけどなあ。
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