深夜の身もだえ。
苦悶に満ちた顔をみつめながら、背中をさすっていると、我慢しきれずに吐息が。
エロエロエロエロ。
さすがに一時間も吐き続けていられると、心配にもなるというもので。
明日、一応第一志望の入試である。というその夜、相方が腹痛を訴え、吐いている。
救急車に乗せるべきだとわかっていながら、それで八王子の病院とかに連れて行かれるともう、娘ちゃんの腱鞘炎に報いることができねぇと、相方を犠牲にすることに決めた薄情な私。
留守に備え、兄弟を団子にして寝かせておく。ああ、こういうとき、姉弟は便利だ。
一時間電話をかけまくり、近隣4キロ四方の病院からはことごとく断り続けられて、受け入れてくれるところがない、とにかく痛み止めが欲しいんだと最初に断られた最も近所の病院に、電話で掛け合う。必要な処置が出来なければそうなったときに喜んで転院するから、重篤なのかそうでないのかを診てほしい。何があっても、決して責めることはないから、診て欲しい。
かなわない望みはない!という受験モードになっている私、欲しいものはこの手でつかむのだとばかりに説得して、やっと病院へ。こんなところで、受験が役に立つなんて。
歩けない相方を、初めて見る。
ああ、このままこの人が死んじゃったらどうしよう。私はやはり、仕事をすべきだ!と、暗い病院の待合室で、ひそかに妙な決心をしていた。
レントゲンで、胆石や腸閉塞などの緊急性はなさそうだということがわかり、ほっとする。
痛み止めの点滴を打ち、痛み止めの薬を飲ませた。そのまま泊めてもらって、朝いちで診てもらえないかと聞いてみたが、それはさすがにダメらしく、家に戻って寝かせる。
アイロンをかけて、靴を磨いて、受験生の親としてやるべきことをやって相方を見ると、うとうとしては、また痛がっている、「痛みサーフィン状態」であった。
陣痛の時を思い出した。生まない苦しみだから、もっと苦しいだろうな……と、「膿みの苦しみ」だったそれを見て思った。
盲腸だった。
即手術が必要なほどの、立派な盲腸炎だった。
昨日運ばれていたら緊急手術だったんだろう。今日は凪。でもそれは、炎症が進んで痛みを感じなくなっているからで、極太のミミズみたいな虫垂は、真っ赤に染まって大変憎いのだった。
今、相方は入院して、結構情けない格好で寝ている。
写真をアップしようとしたら、娘ちゃんに「夫婦でも、本人の断りなく、こんな情けない姿を公にさらしてはいけないと思う」と注意され、そのとおりだと思う。ほど、情けない格好である。
でも、無事でよかったよ。
そして、娘ちゃん、なんかここんとこ、大人だよ。
朝六時に起きて、娘ちゃんと共に受験会場に行き、見送ってあわてて病院に向かったのだが、娘ちゃんは明鏡止水、終始一貫楽しげなのだった。
そして、終わった後の電話でも、「手ごたえはあった、でも、それが必ずしも合格につながるわけじゃないとも思う」と、それぞれの科目について、冷静かつ嬉しそうに語る。
「もし、これでダメでも、いいと思ったんだ。私は全力を尽くしたし、全問しっかり解けたと思う。解けたときには嬉しかったし、満点の部分もあったと思う。作文は、思うことを書いた。それで私をいらないというなら、ここは私の学校ではないということだよね」
……おつ! それで、よし! 我が家の受験は、これにて一件落着だ。
あなたをいれないという学校は、大損をぶっこくよねー、だせぇぜ!と、声をかけた。すみません、DQN言葉で。
結果は明日。
「おかあさん、落ち着いて。お父さんは大丈夫だから。混乱したときには、まず深呼吸する!」
と、今日、病院でわたわたになっている私を、ずいぶん支えてくれたりして、ああもう、こいつぅぅぅ。
受験で一番得たものは、勉強好きになったお嬢が、少し大人になったこと。
やけに時間がかかった手術、うろうろいらいらする私を、なだめてくれてありがとう。よくがんばったね。お嬢、私の中では、君が最高に合格だよ!
君の志した国立が、君のすばらしさを理解してくれるといいね。
小僧は、待機していなさいとのメモを無視して、友達の家に遊びに行き、お父さんの手術前の景気づけに間に合わず、母にこっぴどく叱られる。
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