2006年09月08日

就学相談

「おかあさん、あのね」
と、同年配の彼女は、眉毛をぴくぴくさせた後に、厳かに言う。
「まず第一に、福助君のことを考えてあげましょうよ」
耳を疑った。
「ええ、もちろんです。いままでもそうしてきましたし、これからもそのつもりですが」
「……それならいいんですけどね」
吐き捨てるように言って、ため息。
これで、愛のある先生の役を演じているつもりなら、蜷川でなくても灰皿を投げるだろう。

疲れちゃったよ。
こんな敵役がこれから学校ではいっぱいでてくるわけ?
プロにもなりきれてない、高給取りのお偉いさんが。
一体この先、私はどれだけ経験値があがるんだろう。
いつもならわくわくするが、今回ばかりはダメージになっている。
このステレオタイプな敵役は決して倒してはいけない権力者だからだ。大嫌いだ。
大嫌いでも、笑ってかわす。それは私が母親のプロだからだ。障害者の親としてもプロフェッショナルであり、それこそが私の自尊心だからだ。

子どものことを第一に考えない親が一体どこにいるのか。
そう聞けばよかったよ。
仮に、自分第一の親がいたとして、初対面の者が上からその台詞をところで、どれだけその人の心に届くのか。届かない言葉は、ただの雑音だ。
いったい、どれほどの想いを込めて言っているか、その表情からは伝わらない。
「アンタだめ親でしょ。子どもを普通学級へ、って、そんな親の見栄捨てなさいよ」という本音が簡単に見て取れる。
意味のない一言と、誤読しているかも知れないがその本音と、それがどれほど親を傷つけるか、多分先生方は気がついていない。
福助と私の、何を知ってそう言っているのか、そうもたずねてみるべきだった。
就学相談に来ている、それだけで既に一歩踏み出している親たちなのだ。その親に対して、何も知らない先生がおためごかしにいう「綺麗な言葉」に、私は憤る。

今まで6年間、福助のことを最初に考えて行動してきた。自閉症マニアと自称出来るほどに調べに調べぬき、だんだん楽しくなって来ちゃって、この才気溢れる風変わりな子どもを愛しんできた。
そのおかげで、見えなかった人々の愛が見えてきた。
今まで自分が敬遠していたタイプの人すら、愛おしいような気持ちになってきた。
愛の拡大解釈は、生きて行きやすさにつながっていく。
私が彼に与えたスパルタンな療育は効を奏したが、彼が私に与えたゆるゆるの愛もまた、私をずいぶんと変化させたと思う。

だから、何を言われても平気。
「悪意のない偏見は偏見と見なさない」という訓練も、「子どもが社会に赦されている分、私が社会に貢献しよう」という行動も、ずいぶんレベルアップしたと思う。「どこからでも切れます」と記載された
お弁当についている醤油のように切れやすかった若い頃に比べれば、今は忍耐の権化になったと言ってもいい。
その私が憤怒している。
その場で激昂すれば、「思うようにならない現実に対する代替行為だ」と勘違いされるので彼女にはかみつくな。と、一瞬にして計算出来るほど大人ではあったが、飲み込んだ怒りというのは容赦なく内臓を焼く。腹持ちがよすぎて、いつまでもむかつく。

診断が出た以上、就学相談はするべきだと私は思う。
就学相談とは、小学校に入るときに、特殊学級にいくか、言葉の学級といったちょっと特化したクラスに通級(週に何回か通う)で入れるか、あるいは普通にするかを、市区町村の教育委員会が様々な検査をして決定するものだ。
もちろん、保護者の希望も取り入れられる。
学校の関係者もチェックする。
それで希望が一致すれば問題はないが、一致しなかった場合、話し合いがもたれる。その子の進路を、その子のために話し合う、それが就学相談である。
ご配慮頂かなければならないことがある以上、こちらのデータはすべて学校に提示するべきだろう。
明らかにボーダーなのに、黙って普通学級に入ってしまえばいいという発想をもつ親がいるようだが、私には理解出来ない。
そういう親にこそ言え、教育委員会。そうやって後で問題を起こされたら面倒だという感情を、正々堂々就学相談に来ているこっちに預けるな、と思う。

「まずお子さんのことを真っ先に考えて」
という言葉は、福祉センターなど福祉産業従事者からも発せられて、そのたびに不快だった言葉だ。宿題をやろうとドリルを開いている子どもに「宿題やりなさい」というのと同じじゃないか。福祉関係の門戸を叩いている、その時点で子どものことを考えているのだ。
その同じ口で、
「がんばらないで、おかあさん」
とも言われたりもする。言った本人は、深く考えず挨拶代わりに言ったのだろうが、迷惑な流行語だと思ったことがある。

自分の子どもを親以上に愛する人はいない。愛し方は千差万別でも、そこに愛は必ずある。
それは子どもの命にかかわらない限り、他人がとやかく言うべきではない。

それでもシステムだからとやかくいわなければならないのだとしたら、プロの先生として恥じない発言を心がけてほしい。
この希望をどこにだせばいいのかがわからないが、次回の就学相談で、きちんと話してみようと思う。
「まず第一にお子さんのことを考えてあげなさいよ、おかあさん」
と、仮に、彼女の子どもが非行に走り、補導された先で警官か何かにそう言われたら、彼女は何と答えるのか、聞いてみたい。いきり立つのか、心にしみるのか。
ふと、自己投影なのかもしれないと思う。
彼女自身、そう言われれば目が覚めるのかもしれず、全人類はみんなそう考えると信じて疑わないのかもしれない。

そうか、言われてイヤだったら、その言葉を投げかけてどんな気持がするかを聞く。
福助が「ばーか」といったら、徹底して矯正してきたではないか、私は。
なんだ、幼児に対する教育スキルを使えばよかったのだと思い知る。……それを同世代の先生に使わなければならないと言うことが、情けない。

疲れちゃっていたが、憤怒を整理したらちょっと元気が湧いてきた気がする。
私はこうやってどんどんいけすかないババアになっていくのだろうか。
何が忍耐の権化だ、「切れやすさ、一層アップ!!」だ、どうしよう。
週末はゆっくり休んで、また憤怒を、もとい、鋭気を養いたい。


2006年09月08日 10:36
コメント

久々のコメント復活ですね。
ナマズの子とは、おもしろい(^^)

あー、私も三人目が欲しいなぁ・・・。

Posted by: あんな : 2006年09月08日 11:23

「まず第一に、福助君のことを考えてあげましょうよ」
って、そんなくだらなくも自分の中では
「なんてかっこいいんだ俺、この台詞が一番グッとくるだろう、さすがはプロだな」って
臭いがプンプンする臭い台詞を吐く馬鹿って
まだ教育会にはそんざいするんですねー
わぁ、びっくり
U子さんの活躍はこのブログを読んでる人なら
みーーーーーーーーーーんな知ってるんですから
いつもの不敵な笑みで撃沈させてやってください
しかし、馬鹿に権力持たすとろくな事がない

Posted by: D面 : 2006年09月08日 12:24

初めまして、私も3才4ヶ月の自閉症の息子がいます。
以前から読ませていただき、ここからたくさんの元気をいただきました。
うちはまだ幼稚園も行ってないからこれから社会とどう暮らしていくか、未来は見えません。高機能なのかどうかもわからない段階です。
(言葉はぽつりぽつりとでてはいますが)
子どものことを考えない親なんていません。
子どもが笑顔でいられるように、親がいなくなっても将来生きていけるように・・。みんな思って育ててますよね。
要望が通ること、お祈りしています。
福助くんのこと、一番理解してるのは、教育委員会のおばさんではなく、お父さんお母さんですから。
がんばってください。
なんかうまく文章かけなくてごめんなさい。

Posted by: めぐみん : 2006年09月08日 15:38

はじめまして。
いや、この人の言うこともわかりますよ。
わたしの従姉妹の子供も自閉症なんですが、世間体が気になるという理由で、さんざんごねましたから。
わたし達が何を言っても、「当事者じゃないから何とでも言えるでしょ」と、まったく聞く耳を持ってもらえません。
普通学校に行くことになりましたが、結果、多数の人に迷惑をかけています。
子供のことよりも世間体を気にする、こういう馬鹿な親もいるのです。
その人もそういう経験があってあのような事を言ったのかもしれません。
その事も考えてあげてください。

Posted by: ひろ : 2006年09月10日 20:06

あんなさん
目指せ、三人目!! まずは、こうのとりの句をつくることから(笑。

D面さん
うん、いつもありがとう。頑張るよ。ちゃんと不満を直接伝えることも、市民の義務だと思うんだ。

めぐみんさん
おお、一番頑張っている時ですね。
そうだよこれから就学相談に行く人たちがイヤな想いをしないように、できることをすべてすべきなんだよと、めぐみんさんのコメントも私の力になりました。ありがとうございます。今後とも、ヨロシクお願いします。

ひろさん
そうですね。ひろさんのおっしゃる通り、その人に過去、何があったのか、今度は伺ってみるつもりです。どうするとあんなコトバがでてくるのか、知りたいです。
また教育委員会は、相手の話を聞くべき立場の仕事にありながら、(仮にひろさんのご指摘通りなのだとしても)ご自分の過去の想いにとらわれるのは、プロとしてはいかがなものかと考えた結果の日記だったのですが、そこがご親族に自閉症を抱えるひろさんには伝わらなかったようで、残念です。
彼らが「相談を受ける親たちはすべて、保護者のわがまま、ただごねいてるだけ」という前提で話すという現状。これが正しいのかどうかを、後続する頑張っている障害者の親たちのためにも、考えて頂かなければなりません。
ひろさんのアドバイスで、まず、彼らの立場を理解しようと思いました。そして、その上で、今度はこちらの立場もご理解頂けるよう、話をしてみるつもりです。

従姉妹さんのお子さんにとって一番いい方向、一番心地いい場所がみつかるといいですね。

Posted by: ゆう子 : 2006年09月11日 12:26

お久しぶりです。
実は、全く同じ日に似たような言葉を言われ、
ムカムカしました。
うちの場合は、長男の自閉症のことではなく、
次男のアトピー治療についてで、
ドクターに、ステロイドを使わないことを
「お子さんにとっては、ベストではありません」
「ますはお子さんを中心に考えましょう」
て言われて、

私達は私達で、勉強し、子供を第一に考え、
長い目でみて漢方薬を選んだんです。
先入観だけで選んだのではありません、

と反論してきたところです。

子供のことを真剣に考えて、向き合っている親に対し、
これ以上失礼な言葉はないですよね。
ムカムカ。

そうそう 福助君も来年は小学校ですね、
うちの自閉症長男トラも来年小学校です。

またまた、いろいろあるだろうな、と思いつつも、
かかってこいや。という気持ちです。

お母ちゃんは一生お母ちゃんで、子供が大切だから、
なんだか頑張っちゃうものですよね。

Posted by: ふよ : 2006年09月13日 09:34
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