銭湯
戦闘は気持ちいい。
……せんとう違いだ、銭湯だ、銭湯。
子ども達をつれて銭湯に行く。
大人410円子ども180円幼児80円のレジャーだ。
古式ゆかしい下駄箱の使い方、籠とロッカーの使い方。まず体を洗うこと、熱い湯への入り方、濡れた体の拭き方と、扇風機と体重計の使い方、そして仕上げは、風呂上がりの牛乳の味。
そんなことをいちいち指導しながら入る。
そして、かあさんの18歳の頃の思い出も語っちゃうよ。
280円の銭湯代金と食事代と迷って、銭湯を犠牲にし、やむなく台所で洗髪した夏の日のこと。
今日こそは風呂に入ると決めて駅から走って帰ってきたのに、やっぱり間に合わなくて、看板になってしまった残業の日の夜のこと。
小銭を握りしめてて転んで、百円が溝に入ってしまい、泣きながら探したこと、そして銭湯をあきらめて帰る足取りの重たかったこと。
手取り十万円のバイト代、三万五千円六畳一間トイレ付きのアパートに一人で暮らしながら、夢だけで何も怖くなかったし、夢だけでおなかいっぱいだった日のこと。でも、夢だけだとやっぱり栄養失調で倒れること。
銭湯のお湯があんなに熱かったことを、久しぶりに思い出した。猫舌で猫肌の私は、最初、入れなかったんだったなあ。水埋めてて、ばあさんに叱られた。あ、それは私が小学生の頃の思い出だったかも。この小さな穴を潜ってくぐったりしたよ。冬はおでんを買って食べたんだ、これがまたうまいのなんのって。卵と大根。当時から好物は変わらないなあ。
かあさんがうっとりしながら銭湯を語るモノだから、子ども達にとってもめちゃくちゃ素敵な場所になったみたいで。ああ気持ちいいと大絶賛だ。富士山がある、タイル画がある、みたことのない看板やポスターにはしゃぎ、ぽくぽくしたマッサージ機やお釜ドライヤーを「これ何?」と聞いて、昭和ノスタルジーは彼らにとってはひとつの異文化テーマパークだった。
今では子どもに牛乳を買い与えるのも躊躇しない。今日なんか、私、大好物のデカビタCを購入、腰に手を当てて飲んでしまったわ。当時はオロナミンCが買えなかったんだよ……大出世じゃん!! 涙出ちゃう。(最近涙もろいのは老化のせいかもしれない)。
帰り道は虫の声がして、もう秋風が吹いていた。
よーし、次は冬の寒さが沁みる晩の銭湯だな。そして湯上がりのおでんという至福を教えてやろう。うふふ、楽しみ。
いつの時代の子だ?とは思いつつ、こんなことで単純に盛り上がれるうちの安上がりな子ども達は、ホントにいいヤツだと思う。
2006年09月03日 00:19