万華鏡

卒業

卒業生に対して、何かしたいねぇ。
と役員で話し会う。幼稚園の卒園は、むしろ親にとって特別な日だから、そこに対しておめでとうと伝えたい。で、在園児の有志の親たちで勝手にアーチを作って、卒業生を見送ることにした。
どうする?　何か歌でも歌う?　と振られてとっさに出てきた卒業の歌が、
「この支配からの、卒業♪」
って、尾崎かよ。
っていうか、私的には、井上マーなんだけど。
「六歳で、支配とか言うな〜」
とつっこまれつつ、同時に
「しかも古いし〜」
と言われて、ああそうか尾崎って30代前半にはすごい古さなんだろうなと思う。といいつつ、尾崎、オンタイムで聴いたことなくて、今ひとつ時代が掌握できていないわ。私にとって卒業の歌っていったら、「贈る言葉」だもん。杉田かおる、同じ年だもん。俺たちは腐ったミカンじゃねぇっ。だもん。

ミカンといえば、今日、高級食材の紀伊国屋で勧められるままにミカンの試食をした。とてつもなくうまくて、P子大興奮、「おいしいおかあさんこれ買って、これおいしい!!」……この正直者め。しかし、１個200円のみかんなんか、買えるかいっ。ととっさに思った私は、平静を装って一口食べ、顔をしかめて「ん〜、おかあさんはもっと自然に酸っぱい方がいいな」と言ってスルーした。でも、心の中では本当の私が叫んでる。
「うまいうまい、うまぁぁぁぁい」!!!!!
帰宅した今になって、食材腐らせることを考えたら、１個200円のみかん、2,3個買うぐらい、何でもなかったんじゃないの?と後悔するほど、うまかった気がする。今月買う書籍を一冊あきらめたら、ビールを雑酒に切り替えたら、と、せこぉーい考えに支配されるが、そもそもそんな無理して買う物なのか?　ミカン。

ケリーバック持ってお買い物に来ていた20代前半のお姉ちゃんが、私の使ったこともない食材をカポカポかごに入れていく。チコリって何?　あんなちょっとばっかり、何に使うの?　　
シルバーフォックスの襟をつけた初老のおばさまは、上品そうに27000円のキャビアなんかご覧になっている。なんだ、ここは日本なのか?　　P子は見たことのないドリンク類に魂を奪われているし、福助は福助で「これきっとおいしい。きっとおいしい」とバンホーテンココアを胸に抱いて放さない。こいつら、なんて異次元空間に弱いタイプなんだ。
同世代のおばちゃんもいたが、なんだか明らかに私とは磨き方が違う気がしたわ。お前が着ると、フランス軍のアーミーコートも、どかちんコートに見えるぜと言った相方の声がこだまする。
ちょっとだけ見栄を張って、二割引のシールが貼ってある方じゃない調理パンと、飲んだこともない高級なヨーグルトドリンクと、バンホーテンココアを買って、駐車場で飢餓状態だった子ども達に食べさせた。
「おかあさん、これ、高いよね?」
と、P子が聞くので
「うん。いつもの倍」
と言うと、
「あのさぁ……これ、いつもの10倍は美味しいと思うから、結果的には、お得だよ」
一口飲ませてもらったら、……すっげぇ、うまかった。でも、10倍はオーバーだと思うよ。

P子を習い事の場所においたら、福助と一緒にいつものスーパーバリューへ。特売品、半額品をさっきのケリーバックねえちゃんと同じペースでカポカポ、かごに入れていく。うるい、発見。あのピクミンの葉っぱは、うるいっていう山菜なのね。チコリより愛国心溢れるお買い物するじゃないのさすが亀の甲より年の功よ一昨日初めて食べた野菜だけどねなどと思いつつ、ビール売り場へ。財布の中身を考えて雑酒を買っていたら、
「あ、会長さ〜ん! 」
と声をかけられた。あら、同じ幼稚園の……。こんばんわ〜。
で、私はとっさに何をしたかというと、雑酒の他に、クラシックラガーを6本1パック、入れたのよ。かごに。
見栄だ、見栄だ、見栄だ〜。どんな見栄だ?! 　ささやかな父母会会長の見栄?　2割引のお弁当まで買い込んでいて、何の見栄だ!
と、重たいポリ袋を持って駐車場に運びながら苦笑する。そもそも、今、こんな無理して買うべきものなのか、2パック買い置きがあるクラシックラガー(相方専用/私はいろいろ試したいタイプ)。
っていうか、ちいさい幼稚園だし、みんな知ってると思う。私が決して高級志向じゃないことも、高級がむしろ似合わないってことも。
っていうか、クラシックラガー、別に高級じゃないだろう。普通だろう。それを高級って思ってしまうところに、すでに馬脚が。

一体、何に支配されているのか。
この支配から卒業すべきは、私自身かもしれない。