2006年02月15日

少年はいつの日も。

娘の参観日に行ってきた。
読めない字を問われているうちに、なんだか娘の班の子ども達から質問攻めにあい、そうなるとがぜん面白くなってしまって、なぜだと思う?  そうだね、じゃあどうしてそうなる? その通り、じゃあこれはわかる? なんて、私塾の講師のように対応していたら、それまでノートも教科書も出さなかったやる気のないとある少年Wが話に乗ってきた。
彼は自分の知る限りの知識を話し始めた。非常に面白い観点だったので、話を聞いていたら、いよいよ止まらなくなった。そして、
「ああ、俺のお父さんがいたらなあ。お父さん、インターネットの会社の人だから、何でも知ってるんだ。いつも教えてくれたんだ」
と、親自慢を始めるのだった。再三、お父さんの話を繰り返す。周りの子は、特に気にも留めずに、自分の質問に夢中になっていて、一対一対応じゃなければ効率もいいんだが。と思いながらも、担任の先生の意図をはずさないように、回答は言わずに、あおり続けてみた。なんだか娘の班の子ども達はみんな興奮して、とっても楽しそうだった。

次の時間、一番口数の多かったその少年は、丸まってまるで繭のように上着をまとい、動かなくなっていた。
授業、放棄である。
何があったのかはしらない。何かささいなことで先生に叱られたのだと思う。それで先生に「いじけたいならいじけていなさい」と言われ、引きこもったのだ。結局彼は、一時間放置されていた。
小さなその背中だけが見える。何を考えているんだろう。
他の母親達から、ひそひそと非難の声も聞こえる。
でもさ、なんだか私には痛い気持ちが伝わってくるようだった。
少年Wは、離婚家庭に育っている。お母さんはパワフルで明るい。
彼が着ているアディダスのウェアは新品でかっこよく、髪の手入れも行き届いているが、机の中はぐちゃぐちゃで、体操着は忘れていた。平日の日中、生活かかっている彼の母親が参観に来られるはずもなく。
今、彼は父親とは別々に暮らしているはずだった。その彼が、父親について生き生きと語っていたのだ。自慢げに、楽しかった思い出を。
私が矢継ぎ早に質問したように、きっと彼の父親もそうしたのだろう。そうやって、いろいろなことを父は少年に教えようとしたに違いない。それを思い出したから、多分彼は。
そして、彼は丸くなる。
いや、ただ眠かっただけかも知れないが。
切ない気持ちを言葉にはできない、少年はいつもいつも誤解されて傷つきながら大人になっていく。
心に傷を負わない人はいない、ということに、いつか気づいてくれるといいな。
大人になってみると、傷を負わずに来た幸せな人って、他人に対してまるで配慮のできないところがあって、魅力に欠けるんだ。
私塾の講師みたいなことをやっている授業中に、なりゆきで、私は少年にラブレターを書くよ、と約束している。
質問があまりに漠然とした別の子どもがいて、「私の宿題にさせて」とお願いした。それをラブレターにするから読みなさいねと言ったところ、くだんの少年Wが「おれにも。おれにも手紙ちょうだい!!」と言ったのだ。
「いいよ。質問は何だ?」
と聞いたら、ものすごーくたくさんの、かなり無理めな質問を並べていたから、
「OK。とりあえず、一番知りたいことは?」
と聞いて、メモをとった。
この後、私のもてるすべての力で、少年に、ラブレターを書きたいと思う。
こんな日のために、ライター修業をしてきたのだ。
心を込めて、私は書く。

質問は、「徳川家康の没年」なんだけどもね。

2006年02月15日 17:55
コメント

読んでて、不覚にもナミダが出て来ちまいました。
実は、ワタシは、薄いですがいろんな少年とかかわる仕事をしていまして。
この少年の心を理解してくれる大人が、一人でも多く周りにいてくれることを願ってやみません。

Posted by: 猫ひろしで笑った女 : 2006年02月16日 10:19

猫〜さん、ご無沙汰です。
少年は、それでも日々、なんとなく幸せそうに見えます。
おかあちゃん、頑張ってるし。
きっとおとうちゃんのことだって、今も、大好きだし。
自分の中に「大好き」な指針があって、がっちり動かなければ、ちゃんと幸せになれるんだと私は信じてるんですが……甘いですかね。
猫〜さんも、お仕事、頑張ってくださいね。
周りの大人が、ほんのちょっとずつ持ち寄れば、まとまった愛の量になると思うんですよね。

Posted by: ゆう子 : 2006年02月18日 09:03
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