Amazonから個人出版(KDP)で本を出している、出そうとしている漫画家にとって、大きな変動が4月におきました。
一般的な(200ページ近い)マンガの単行本を、200円以下で売ることが実質不可能になったようなのです。
漫画家の山花典之先生がFacebookで教えてくれて、今たくさんの作家で検証しているところですが、どうやらAmazonは本気らしい、ということで、ここでもお知らせしておきます。
去年1月にAmazonから出した「限界集落(ギリギリ)温泉第一巻」は2万2千部を超えるヒットになりました。
おかげさまで電子書籍をセルフ出版した作家として名前を売ることができたわけですが、販売数が伸びた要因として、「1巻100円」という戦略が非常に有効でした。2巻から4巻までは400円に上がるという、ディアゴスティーニのようなえげつない(笑)やり方です。
これが全巻250円。ではこれほどの売上にならなかったことは容易に想像がつきます。全4巻を買う人にとってはそっちのほうが安いのにもかかわらずです。
今電子書籍は安売りが基本で、1巻が特別に安く販売されたり無料だったりするのは、ギリギリ温泉のやり方を真似た、というのではなく、こうやって売るのがもっとも売れる形だからでしょう。
さて、実際にAmazonから100円で本を出そうとすると、実はうまく設定することができません。
KDPを始めようとしている人から、一番多かった質問が「100円で本を出そうと思うが、3MBを超える本は200円以下では出せない。どうやって安く販売しているのですか」
というものでした。
250円以下の本は料率(印税)70%では出せません。
金額を設定するときに「料率35%」を選び、100円と設定すると、エラーになります。
マンガはファイルが大きく、どうやって圧縮しても200ページ20MBあたりが限界です。
AmazonのKDPでは3MBを超える本は200円以下では売れないのです。
ところが、「料率70%」を選ぶと、200円以下で売ることが出来ます。
「99円」と金額を入れた後、「料率70%」で設定することで、35%に自動的に訂正されて販売されるというやり方です。
Amazonの人に、もっとうまいやり方はないのか聞いたことがあったのですが、「それはバグです」という返事をもらいました。
バグを利用してはいるけれども、本を安く売ることについては文句を言われたことがないので、「3MB規定はアメリカの規定であり、マンガが一番売れるという世界でも類を見ない日本市場では適用されないルールなのだ」と勝手に考えていました。
早くバグが治るといいですね。という話をしていたのを思い出すのですが、この4月でバグがしっかり治ったわけです。
「70%で設定しても販売できなくなる」という方向に。
4月以降に新しく出すDKPの本は、この規定が適用されて、3MB以上の本(つまり普通のマンガは全て)は200円以上になります。
以前に出していた本についてはどうなのか。
山花さんがAmazonに尋ねたところ、「すでに販売されている本についても価格の再設定を依頼された」そうです。
今のところまだ100円で売っている「限界集落(ギリギリ)温泉第一巻」ですが、じきに200円に上がってしまうのです。
Amazon側からしたら、今までが間違っていた。バグを利用して勝手に安く売っていたものを、本来のルールにそって直しただけ。ということでしょう。
これは大変困ります。
期間限定で99円などの安売りをするのは、販売上とても有効で、それがカンフル剤のように他のマンガの販売を押し上げます。
宣伝媒体をもたない個人のKDP作家にとって、安売りは、もっとも大きな広告なのです。
大手出版社が次々、無料本、期間限定99円、75%オフ。と安売り合戦をしかけています。それは電子出版普及のためにも、いち読者としても歓迎しているのですが、出版社にできる安売りが個人作家にできなくなってしまうのは、手足を縛られることと同じです。
(この左のマンガ「スモーキングガン」は来週から香取慎吾主演でドラマ化される、竹谷州史先生の力作。こんな面白いのに「今だけ無料」なので読むといいですよ。竹谷くん本当絵が上手いなあ。もうメジャー作家ですね)
元々巨大なファイルを安売りできなくしたのは、3G回線によるダウンロードをKindle端末で無料でできるようにしたからだと思われます。
通信費用をAmazonが肩代わりしているために、ファイルの大きさを制限していたのでしょう。
当初、70%で販売する本には、ファイル1MBに対して1円の通信費を作家に負担させていましたが、その通信費用は去年の夏に廃止になりました。
もう30MBのファイルに30円を負担することがなくなったのはすばらしいことです。
であれば、30MBのマンガを100円で売る自由も認めて欲しいところです。
「Amazonで100円で売りたいならば、他所で同じ本を100円で売ればいい」というやり方もないわけではありません。0円設定は基本的にできないのですが、他の電子書店で0円にすれば、Amazonは他より高く売らない、という前提があるので無料になる。という裏技もあります。
そんなことをしなくても、値段を決められる方がいいに決まっています。Amazonさんそのあたりなんとかなりませんか。と最後はお願いになってしまいました。
誰も好き好んで安く売りたいわけではなく、他が安く売っている現状では、通常値段で販売されている個人出版作品は見向きもされなくなることを恐れているのです。
在庫を抱えない、無限に近い種類の本を供給できる電子書籍の最大のリスクは、在庫の山に埋もれてしまうことです。読まれないくらいなら、ただでもいいので読んでほしい。目に止まらなくなることが最も怖いことなのです。
作家は弱い立場ですねえ。